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言ノ葉ノ箱
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雨の動物園

2019/6/28

 子どものとき、あるいは家に子どもがいたころは何度も行った動物園だが、大人になるとなかなか行かなくなる。でも、大人だけで行くのも乙なものだよね、ということを短歌の仲間と話していて、動物園で吟行をすることになった。
 重く雲のかかった早朝から移動して、横浜市にある「よこはま動物園ズーラシア」にようやく到着したころには、ぱらぱらと雨が降っていた。広大な園内は、「アジアの熱帯林」「オセアニアの草原」「アマゾンの密林」など、地域の気候帯別に生育環境が再現されており、動物たちの暮らす場所のまわりに、その地域の植物が植えられている。さらに、アジアにはアジアの、アフリカにはアフリカの文化にちなんだ建造物や装飾品が施されていて、気分を高めてくれる。動物園に行って、植物も文化も楽しめるとは思っていなかった。ヤシの木も桜も針葉樹も、気持ちよさそうに枝葉を伸ばして元気そう。開園して20年の歳月を感じる。

緑あふれるズーラシアの園内

緑あふれるズーラシアの園内

 ボルネオオランウータンやマレーバク、ウンピョウなど、一頭のみで展示されている檻(おり)もあり、広い部屋を独り占めしてるんだなあ、などと思っていたが、野生で自分のテリトリーを守って暮らす彼らのライフスタイルに合わせているとのこと。子育て中以外は、一匹狼(おおかみ)的に孤独を守って生きる動物もいるのだ。
 そんな豆知識が、立て看板で随所に書かれている点も楽しい。子どものときは、そんな看板を熱心に読んだ覚えがないので、大人が行く動物園の楽しみは、こういうところにあると思う。今は気軽に写真も撮れるので、説明書きを写真に撮ってあとで読み返すことができる。
 インドライオンがゾウの爪のにおいを喜んだ、という、マニアックなエピソードも書かれていた。野生に比べてにおいの少ない動物園での生活にハリを与えるために、ゾウの足の爪の切りカスを、インドライオンのオスの部屋に入れたら、首に匂いを擦り付けたり、切りカスの上でゴロゴロ転がったりしたそうだ。あの大きなライオンが小猫のようなことをするのかと思うと、とてもかわいい。

インドライオン

インドライオン

 ところで私は、アジアにもライオンが存在するということを初めて知ったのだった。あとで調べてみると、かつて棲息(せいそく)していたイランや中東ではすでに絶滅、インドでも絶滅が危惧され、野生生物保護区でのみ棲息しているという。現在は保護区内で生息数が増えているそうだが、とても貴重な種族であることは間違いない。ゾウの爪を楽しみの一つにして、元気に生きていってほしいと思う。

ライラックニシブッポウソウ

ライラックニシブッポウソウ

 「アフリカの熱帯雨林」ゾーンを歩いていると、急に雨が強くなり、スコールのようになった。持参した晴雨兼用の折り畳み傘は頼りなく、靴も服も、びしょ濡れになってしまった。ほとんどの動物たちが雨を避けて小屋の中に避難する中、美しい色のライラックニシブッポウソウという鳥が、雨など全く気にしない様子で高い枝の上に佇(たたず)んでいた姿が心に残った。

北門にバスは来ないと知らされる鳥はぬれても空を見上げる
                     東直子
                 (歌人・作家)

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