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言ノ葉ノ箱
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ほおずきに願いを

2019/7/31

 東京都文京区にある光源寺では、毎年7月9日と10日に、「四万六千日 ほおずき千成り市」が開かれている。この日にお参りすれば、4万6千日分、つまり126年分の功徳を得られるのだという。間違いなく寿命の方が先に来てしまうだろうが、近所なので今年も一日目の夕方に足を運んだ。
 「ほおずき市」といえば浅草寺で開催されているお祭りが有名だが、光源寺は、地元で活動している人を中心とした手作りのお店が並ぶ素朴なお祭りで、近所に住む親子などで賑(にぎ)わっていた。
 出店を巡っているとき、「塗香(ずこう)体験」に目が留まった。身を浄(きよ)めるための塗香の調合体験である。サンプルの「昭和」「平成」「令和」の香の中から、爽やかさを感じた「平成」を選び、指導を受けながら調合した。桜の木の塗香入れから、心を落ち着けたいときにそっと取り出し、てのひらに揉(も)み込んで楽しんでいる。

塗香の材料

塗香の材料

 その他、各種ボランティアグループの出店もあり、「点字ブロックをふさがないで」と印字されたおせんべいを購入した。「川越いもの子作業所」で製作されたおせんべいとのこと。点字ブロックの上を自転車などで塞(ふさ)がないことを意識するためのキャンペーン用なのだ。点字ブロックの上に自転車を置くことを何げなくやってしまう人もいると思うので、おせんべいで啓発できるのは粋なことだと思う。

点字ブロックせんべい

点字ブロックせんべい

 こうした、なかなかマニアックな品々を手に入れることができるのも、手作りの市ならではである。
 江戸時代には、ほおずきの実を丸のみにすると持病が治ったり、子どもの腹の虫を退治できるなどと信じられていて、薬用として実が売られていたという。そういえば子どものころ、ほおずきの実を指でよく揉んで、やわらかくしてから中身を吸い、袋状になったそれをぶうぶう鳴らして遊んだことがあった。

鬼灯(ほゝづき)を口にふくみて鳴らすごと蛙はなくも夏の浅夜を
                     長塚節

孵るものなしと知ってもほおずきの混沌(カオス)を揉めば暗き海鳴り
                     穂村弘

 長塚節は明治12年生まれで、穂村弘は昭和37年生まれ。昭和の半ばまでは、子どもの遊びがつながっていたのだなと思う。今の子どもたちがほおずきの実で遊ぶとは、とても思えない。
 現在のほおずき市で販売されているほおずきはもっぱら鑑賞用で、すぐに飾ることのできる枝ほおずきと、鉢植えのほおずきがある。私は、つり下げるための籠に入ったほおずきの鉢を一つ買って帰った。鉢を一つ買うと、願い事を書ける短冊を一枚渡されたので、ひとこと書いて境内につるした。

ほおずき市の枝ほおずき

ほおずき市の枝ほおずき

 持ち帰ったほおずきの鉢は、お寺に書き残してきた短冊の身代わりのように、ベランダにつるしている。緑色の実の下の方から、灯をともすように、ゆっくりと鮮やかなオレンジ色に変化していく。毎日水やりをしながら、その様子を眺めるのが、とても楽しい。
                 (歌人・作家)

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