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言ノ葉ノ箱
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神の遊び場

2019/9/30

 宮崎県延岡市に「神さん山」と呼ばれる場所がある。今年2月に宮崎で行われた神話をめぐるイベントに参加した縁で、先月末にまた宮崎を訪ねることになった。
 宮崎空港から延岡市を北上し、緑豊かな山道を車で登り、さらに徒歩でしか行けない険しい道を上がった先にある。急勾配の山肌に、木や石で形作られた階段は、野趣あふれる状態で、道の端に打ち付けられているロープをぐっと握って這(は)うように登ったところもあるほど。

神さん山への階段

神さん山への階段

 滴る汗を拭いつつ上りつめると、山並みが一望できる開けた場所に出た。そこに巨大な石が二つ、支え合うようにそびえ立っている。それぞれ24メートルと15メートルもの高さがあるそうだ。この岩が、山に幸をもたらしたという山幸彦を祀(まつ)るご神体である。その岩の間に三角形の岩があり、奥には洞窟がある。そこは、子どもだった神様(山幸彦)が遊んだ、神聖な場所。
 また、巨岩を俯瞰(ふかん)するためにしつらえたかのような大きな平たい石が山の際にあり、円や線など人工的な模様がついている。地元ガイドの石本烈子さんによると、太陽や月などの天体を表している、という説があるのだそうだ。天の川や星座が正確に刻まれた星座盤になっているらしい。なんのために作られたものなのだろう。岩と太陽と月と星、そして神様。遠い遠い昔から変わらずにこの世界に存在しているものが結びついている場所なのだ。
 この山に、祝子(ほうり)川が流れている。「ホオリ」は、山幸彦の幼名である。かつて神さん山にあった祝子川神社が昭和30(1955)年に移転すると、神様の岩までの道のりは、いつしか竹やぶが覆い尽くすようになってしまったという。

神さん山の巨石

神さん山の巨石

 近年、石本さんをはじめ、地元の人らの尽力で再び整えられ、鳥居のみの現在の状態を維持しているのだという。けもの道のようなあの道も、この場所を大切に思う人々の手によるものだと思うと、とても味わい深い。
 
記録なき人のこころの沁む岩と生まれたばかりの声を浴びたり
                     東直子

 神話の時代から現代まで、あの巨大な岩は、敬虔(けいけん)な気持ちで訪ねてきた人の心を受け止めてきた。ほとんどの人は、そのことに対してなんの記録も残さずにこの世を去った。そんなことを思いながら、この時一緒にいた人の声を聞いた。今、私たちはここで確かに生きているのだと、岩の前で透明な気持ちになった。
 同じ延岡市に、山幸彦の両親にあたるニニギノミコトとコノハナサクヤヒメが出会ったとされる愛宕山がある。恋人たちに縁起のよい場所とされ、街を一望できる展望台には、記念の鍵をかけるモニュメントがあり、たくさんの南京錠に名前やイニシャルが書かれて、吊(つ)るされていた。中には、すっかり錆(さ)びている鍵もある。金属板の永遠の絵馬、といったところだが、それだけになんともいえぬ重々しさがあった。これらの鍵は、本人たちが開けなければずっと吊るされたままなのだ。

モニュメントと延岡の海

モニュメントと延岡の海

 千年、二千年と時を経ると、ここもまた、新たな伝説の場所になったりするのだろうか。
                 (歌人・作家)

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