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言ノ葉ノ箱
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人間と人間以外

2020/1/30

 今月、第21回NHK全国短歌大会がNHKホールで行われ、小学生の部の選者として参加した。大賞に選んだ歌の一首が次の歌である。

なつさがしへびのぬけがらみつけたよつるつるしててひらべったいよ
                    山田彩愛

 大会当日、本人にインタビューをする機会があった。「へびのぬけがら」は、夏休みにおばあちゃんの家に遊びにいって、いとこと一緒に草の中で見つけたそうだ。へびもその抜け殻も気持ち悪がる子が多いが、彩愛さんは「怖くなかった」とのこと。こんなに小さな女の子が、「へびのぬけがら」の感触を丁寧に探っていた事実に感銘を受ける。この歌には、へびという生き物に対する敬意と、ほのかな愛情さえ感じられる。
 仕事場の近所に、ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」がある。フランス文学者でもある館長の奥本大三郎さんは、子どもの頃に「ファーブル昆虫記」に出会い、のちにフランスへ行って本に書かれている虫の本や資料、民具なども蒐集(しゅうしゅう)し始めた、とのこと。それらの資料がこの建物に収められている。

「虫の詩人の館」

「虫の詩人の館」

 土日だけの開館だが、子どもたちで賑(にぎ)わっている。スタッフに熱心に質問したり、展示してある標本に見入ったり。拡大鏡で蝶(ちょう)の羽などを詳細に見ることもできる。
 地下には、ファーブルが生まれた南フランスのサン=レオン村の民家が再現されている。1823年に生まれたファーブルが、緑豊かな村で、白い壁の部屋の木製の机の上で身近な動植物をじっくり観察していた時を想像した。

サン=レオン村の民家の再現

サン=レオン村の民家の再現

 地下の通路に、子どもたち(時々大人)の質問に、館の人が手書き文字で答えている質疑応答の紙が貼られている。これがとてもおもしろい。
 例えば、「女王ありに羽がはえたらどうなるんですか?」という6歳の質問に対しては、「アリは、春から秋にかけて(しゅるいによってちがう)羽のあるアリがうまれるじきがあります。そこにはたくさんのオスとすこしのメスがいます。この羽アリたちがいっせいにとびたって結婚します。それがすむと、オスはみんな死に、メスの羽アリは地上にかえってきて、羽をとってすて、すをつくります。それが女王アリで、もう羽がはえることはありません」と答えている。「羽をとってすて」の所が波線で強調されている。一度捨てた羽は二度と生えず、もう空は飛べない。「オスはみんな死に」という部分と合わせ、なんと壮絶な運命を生きているのかと思う。

子どもたちの虫の絵

子どもたちの虫の絵

 「一番長生きをする虫は何ですか?」という45歳の人の質問には、「長生きを『よし』とするのは人間だけです。人間以外のすべての動物は、そんなことはなにも考えていません。は虫類や両生類は長生きです。シロアリの女王は60年生きたという話もあります」という答え。最初の一行にはっとする。動物から話を聞くことはできないのでそれも臆測ではあるが、自ら羽をとって捨てるような潔いことを、人間だけがなかなかできないのは確かだろう。
                 (歌人・作家)

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