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言ノ葉ノ箱
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水に生きる者

2020/8/28

 8月後半になっても、連日猛烈な暑さが続いている。マスク着用が求められたままで、本当に暑苦しくて息苦しい。少しでも涼しい気分を味わえればと、「すみだ水族館」に出かけた。東京スカイツリー隣接の施設「東京ソラマチ」の中にある。現在、新型コロナウイルス対策で、事前にウェブサイトからチケットを予約しておかなくてはならない。
 館内に入ると、薄暗い空間の中で大小さまざまな水槽が灯(とも)っていて、水の中を散歩しているような気分になる。たくさんのクラゲが、半透明の身体を水中に浮かべてふわふわと優雅に動き回っている。長い触手を、新体操のリボン演技のように華麗になびかせる。糸のように細い触手もあり、よくからまないものだと感心する。

クラゲのパシフィックシーネットル

クラゲのパシフィックシーネットル


クラゲ芽といふものにより生(あ)れいでて淡く別るる子どもも親も
                   米川千嘉子
 
 クラゲは、受精卵が変化して「芽」が生え、成長し、切り離される、ということを繰り返して増える。脳は持たない。命を繋(つな)ぐということに関して、人間よりも確かに「淡く」その意識がゆらぐ。
 小笠原諸島の海を模した巨大な水槽では、エイの白い腹が翻り、鋭い目の鮫が通りすぎ、鮮やかな色の小さな魚たちがすいすいと泳ぎ去る。ごつごつした岩から、ウツボが頭を出している。 時折、魚たちの間から、大きな足ひれとウエットスーツのダイバーが泳いでいる。首のあたりから出る空気の泡が、光りながら上昇していく様も美しい。ダイバーはもちろん水族館の人で、魚たちに餌をあげているのだ。子どもが水槽にはりつくように熱心に覗(のぞ)いていると、ダイバーが近づいてきて手を振った。

小笠原大水槽とダイバー

小笠原大水槽とダイバー

 神が地上を眺めているかのように、水槽を眺めていたが、水槽の中からもこちらの姿が見えているのだと気づく。魚たちは、じろじろ覗く人間たちを、どんなふうに感じているのだろう。
 砂の中からにょきっと細長い身体をのばし、ぽつぽつ生える水草のように揺れるチンアナゴを見ながら、水族館がチンアナゴのための「人間の顔」を募集していたことを思い出した。チンアナゴは、本来警戒心の強い生き物だが、水族館では人間に慣れているため、いつもは平気で砂から顔を出している。しかし、コロナ対策での休館が続き、人がいないことが日常になったためか、スタッフが近づいただけでも隠れるようになってしまった。そこで、オンラインで観客とチンアナゴを対面させようという企画だったのである。自粛期間中の、心和む企画の一つだった。

チンアナゴ

チンアナゴ

 そして今、すっかりリラックスした様子で砂から身体をのばす彼らの姿を間近で見ることができる。デジタルカメラを向けると、興味深そうに視線を向ける者もいた。
 館の隅に、小さな亀が2匹いる。小笠原のアオウミガメを預かって1年間育てるとのこと。生まれて間もない赤ちゃん亀ながら、すでにきりりとした瞳が凛々(りり)しい。いずれは青い海に戻るのだ。
                 (歌人・作家)

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