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海の街の雪とひかり
今年の3月に、私の短歌1首を原作とした映画「春原さんのうた」がクランクインしたことを書いたが、その直後に新型コロナウイルス感染拡大の影響で撮影はいったん中止となった。一時はあやぶまれたが、8月の終わりに再開し、秋に無事にクランクアップした。この映画を監督した杉田協士さんの前作「ひかりの歌」が、今月、宮城県石巻市で上映され、アフタートークに私も参加した。
石巻に降り立つと、前日から降り始めた雪が少し積もっていた。雪を踏んで向かった会場は旧観慶丸商店という名のレトロな建物。「観慶丸」とは、江戸時代に米を輸送するために石巻で使われた千石船(荷船)の名前である。昭和初期に百貨店として建てられたこの建物は、丸みのあるフォルムと渋い色合いのタイルが美しい。東日本大震災での浸水に耐え、現在は石巻市の指定文化財として資料展示やイベントに使われている。
今回の映画上映は、一般社団法人「ISHINOMAKI2.0」主催によるもので、コロナ禍ながら幅広い年齢層からの参加があった。顔見知りの人も多かったようで、上映後はマスクをしたままでの立ち話がひととき咲いた。4首の短歌が原作の「ひかりの歌」は、登場人物たちの胸の奥の想(おも)いが響きあうやさしい映画で、フィクションの世界の会話の滋味が現実に滲(にじ)み出したようだった。今は人が集まる場所を避けることが望まれ、映画もオンラインで鑑賞する習慣が進んだが、同じ場所に集まって非日常の時間を共有することのおもしろさを改めて感じたのだった。
イベントの翌日も雪はさらに降り続けていたが、アフタートークをご一緒した石巻出身の歌人の近江瞬さんに、石巻を一望できる場所に案内していただいた。灰色の海と空とが溶け合う雪景色の中、あのあたりの家は津波で全部流されたんですよ、と教えてもらった。海辺のその場所は、雪野原だった。そこにもう一度住宅が建つことはなく、広い公園になるのだそうだ。
海に沿う地名の由来を紐解けば波が渡ると書いて「渡波」
近江瞬
近江さんの第1歌集「飛び散れ、水たち」に収載されたこの歌には、「この街の輪郭が変わっていく速さはすさまじい」と始まる添え書きがあり、故郷の街の急激な変化への戸惑いを伝えている。
「ISHINOMAKI2.0」は、震災直後に立ち上がった組織で、街の新たなコミュニケーションの場としてカフェやワークスペースなどをプロデュースしている。その一つの「石巻 まちの本棚」という書店には、手作りの木製の本棚に絵本、小説、エッセイ集、私家本など、多様な本がぎっしりと詰まっていて、貸し出しも行っている。座ってゆっくり本を読める場所もある。ここで、来年2月から3月にかけて、近江さんの短歌と、震災後に石巻に移住した写真家の山田真優美さんの作品との展示もあるとのこと。震災を乗り越えた海風のふきぬける街には、文化を分かち合うことのできる魅力的な場所が新しく生まれ続けている。
(歌人・作家)
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