自治会役員、細るなり手 住民高齢化で解散検討も
「こちら編集局です―あなたの声から」を始めます。読者の皆さんから届いた質問や悩み、取材の中で聞いたつぶやき…。さまざまな「声」を手掛かりに、記者が背景を探り、掘り下げます。初回は自治会の役員問題を取り上げます。各地で、なり手不足に悩んでいるようです。
「会長を務めて20年。そろそろ交代してほしいが後任がおらんのよ」。胸につっかえていた言葉を吐き出すように、広島市の男性(79)はつぶやいた。本当は町内の身近な人たちに面と向かって言いたい。でも少しでも口にすると、すかさず説得されるという。「もう少し、頑張ってくださいや」と。
住まいがある団地は造成から約50年。住民全体が老いた今、誰も役員にはなりたがらない。自宅の棚には自治会資料のファイルが200冊以上並んでいた。机の上には資料の作成に使うパソコンが1台あった。「まるで会社の事務所のようでしょう」と苦笑いする。町内の祭り、清掃、運動会、防犯パトロール…。この20年、大小さまざまな地域行事を引っ張ってきた。
だが3年前に白内障を患ってからは、「老い」をひしひしと実感するようになった。「パソコンの小さい字を見るのがしんどうて、資料を作るのにもえらい時間がかかる。物忘れもひどくなった」。それでも気力が続く限り、自分が担うしかないのだろうと男性は思う。「これで、地域がもめるのは嫌ですけえ」
▽加入率が目減り
住民の高齢化に加え、業務量の増加が背景にあるようだ。「昔はなかった問題が次々と出てきている」と市内の別の自治会会長(77)は語る。
1人暮らし高齢者が増え、孤立防止や安否確認が課題に。災害が多発する近年、いかに円滑に避難誘導するか…。時代の変化に対応するため、自治会の役割も責任も増している。「定年退職した人が地域の世話をするという、かつての自治会像は成り立たない」
役員にのしかかる負担感は、自治会の存続をも脅かす。「役員を引き受けたくない」という理由で退会したり、引っ越したりするケースが少なくないという。実際、自治会の加入率は年々目減りしている。広島市内では2017年度、59・4%。10年前に比べて7ポイント以上減った。中には、解散を検討する自治会も出てきている。
この事態を広島市は「憂慮すべき課題」とみる。自治会という互助システムは、自治体を運営する上での命綱のようなものだからだ。市市民活動推進課では、職員が転入者に自治会加入のチラシを配るなどの啓発に取り組むが、まだ成果は見えてこない。
▽行政は危機感を
一方でこうした問題を、新たな仕組みで解決しようとする動きもある。広島市佐伯区の東観音台団地。定年退職者たちを中心とする有志約40人でつくる「東観音台連合会」は、地元の三つの町内会の主な業務を肩代わりしている。
町内会費の一部を活動資金とし、毎年秋の祭りや防災訓練を運営。団地の廃品回収で得た収益で、集会所で月1回の交流カフェも開く。佐々田次雄会長(72)は「一つの町内会だけでは運営が難しいが、複数の町内会の役員が連携することで助け合うことができる。加入率の維持にもつながる」とメリットを強調する。
自治会について調査・研究する近畿大の竹本康彦准教授(応用統計)は「1人暮らし高齢者や生涯未婚者が増えるなど、家族のかたちは小さく、弱くなるばかり。その分、地域のサポート力が問われるがこちらも弱体化が進む。この『共倒れ』現象を食い止めるため、行政はもっと危機感を持ち、自治会へのサポートの在り方を模索すべきだ」と指摘している。(中川雅晴、新山京子)
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