原爆やじ「拡散」どうして 地元でも進む知識の風化
「原爆落ちろ、カープ」と中日ファンの男性がマツダスタジアム(広島市南区)でやじを飛ばす動画がツイッターに投稿された騒動から2カ月。プロ野球ファンが集うインターネット掲示板で「いまもひどい言葉が流行語のように飛び交っている。許せない」とのメールが編集局に寄せられた。実態を探ってみた。
掲示板をのぞくと、目を疑うような投稿がいくつもあった。「原爆落ちて全員死ね」「もう一発ぐらい落ちてもいいやろ」―。無論、匿名だ。それらに対し、「人権感覚を疑う」「絶対に言ってはいけないこと」などと非難する投稿もある。一方で「ネットのノリ」「ネット用語だから」と擁護する返信もあった。
▽次世代と温度差
「原爆でどれだけの人がつらい思いをしたか、知らんのじゃね。残念なのう」。佐伯区の前田正弘さん(80)はつぶやく。7歳で被爆し、やけどを周囲にからかわれた。その痛みを次世代と共有できていないことに、やるせなさが募る。
無知ゆえの発言―。スポーツジャーナリスト玉木正之さん(66)も、同じ見立てだ。「相手をたたきのめす意識しかない。原爆への無知から生まれた差別」と断じる。
広島を訪れる他球団のファンは、「原爆落ちろ」発言をどう受け止めたのだろうか。大阪市から来た女子大生2人組に記者が尋ねると、一人は「よくないことだと思う」と言った。すると、もう一人が不思議そうにつぶやいた。「広島の人はなんでそんなに怒ってるん?」
すかさず「原爆で何人が犠牲になったか、知っていますか」と問うと、「さあ」。「原爆が投下された日は?」「えっと、夏よね」「8月じゃなかったっけ」―。原爆については小学校で少し習っただけで、原爆ドームや原爆資料館を訪ねたことはないという。「私たち原爆のこととか何も知らんし、怒る気持ちもぴんとこないよね」「確かにね」
▽あの日から73年
原爆投下から73年。被爆体験を継承し、風化させないことの難しさをあらためて思い知らされる。ただ、若者の無知を嘆くだけでよいとは思えない。
戦争を語り継ぐ大人の側の姿勢も問われているように感じる。政治家から、日本の核武装についての議論を容認するかのような発言が飛び出しても、以前ほど騒ぎにならない。「反戦」「反核」への意識が弱まってはいないか。
伝える側にある被爆地広島の姿勢も問われている。平和記念公園ボランティアガイドの村上正晃さん(25)=西区=は「広島の人は怒るだけでなく、自らを省みる機会にすべきだ」と指摘する。
広島の人をガイドしても、原爆ドームの歴史について「知らなかった」との反応が多いことに驚くという。「平和への思いは強く受け継がれていても、知識の風化は広島県内でも進んでいる」
村上さんは、会員制交流サイト(SNS)やブログで自身の活動を地道に伝え、「平和公園に来てください」と呼び掛ける。ブログにこんな言葉があった。「このまま原爆や戦争が忘れられると必ずまた同じことが起きます。平和な今、考えることが大事」(中川雅晴、松本輝)
あなたにおすすめの記事
こちら編集局です あなたの声からの最新記事
-
【こちら編集局です】広島県と広島市、公共施設の休・開館の判断は 運営の協議・調整なく (1/18)
▽休館→広島市、コロナ対策で独自基準/開館→県、市民生活への影響最小限に 新型コロナウイルス感染防止対策で、広島市内の図書館など市民に身近な公共施設の運営に関して広島県と市の対応が分かれている。市が...
-
【こちら編集局です】広島県、コロナ集中対策再延長 感染防止強化に理解 時短効果疑問視も (1/14)
広島県が14日、新型コロナウイルスの集中対策期間を2月7日まで再延長する方針を決めた。広島市で国の緊急事態宣言の対象地域に準じた対策を講じ、飲食店への営業時間短縮の要請エリア拡大など、従来より強化す...
-
【こちら編集局です】「安倍氏説明を」多数 政治へ不信感や怒り (12/22)
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填(ほてん)問題で、安倍氏が東京地検特捜部から任意で事情聴取を受けた。編集局は22日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者...
-
【こちら編集局です】Go To停止「遅すぎ」 政府の対応、批判が大半 (12/15)
「中止は当たり前」「判断が遅すぎる」―。菅義偉首相が14日夜、表明した観光支援事業「Go To トラベル」の全国一時停止。表明後、編集局が無料通信アプリLINE(ライン)を通じて意見を募ると、約2時...
-
【こちら編集局です】「じわる」若者言葉、まじ「レベち」 SNS世代の新語、考察してみた (12/6)
▽スマホ入力→省略して即レス/他人に同調→あえて断定せず 若者の会話やネットの投稿で、不可思議な言葉に出合うことはありませんか。周囲の親世代からも「あれってどういう意味?」との声が聞こえてくる。調べ...
「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。
LINE公式アカウント
メール
「こちら編集局です」ご意見・情報提供はこちら
郵送
広島市中区土橋町7-1
中国新聞社
「こちら編集局です」係
ファクス
「こちら編集局です」係
082-236-2321