禁止でも通る「勝手踏切」 可部線隙間から横断、列車と接触事故
広島市安佐南区長束地区のJR可部線安芸長束―下祇園間で4月末、線路を横断中の男性が列車と接触し、重傷を負った。現場は、遮断機や警報機はないが、フェンスなどはなく通り抜けができる、いわゆる「勝手踏切」。事故を受けてJRは6月中の閉鎖方針を地元に伝えた。現場へ取材に行くと、住民からは「高齢者には欠かせないのに…」と困惑の声が聞こえてきた。どう解決すればいいのか。
事故が起きたのは、線路沿いに続くフェンスが1メートルほど途切れた勝手踏切。記者が平日の午前7時ごろから立っていると、まもなく70代の主婦がやって来た。「足腰の弱い高齢者にとっては欠かせない生活道なんです」。線路を挟んだ向かいの地区にあるスーパーへの近道としてほぼ毎日通るという女性にとって、JRの閉鎖方針は唐突と映る。
▽全体で数百カ所
現場の南北に2カ所ある正規の踏切までは約70〜120メートルある。記者が現場にいた約1時間半の間、線路をまたいで渡る人が10〜15分おきに現れた。行き先の多くは、約150メートル先にあるバス停。約10分間隔でバスが来る。自転車をかついで通り抜ける高齢男性も見掛けた。「危ないですよ」と声を掛けると「回り道は面倒」との答えが返ってきた。
勝手踏切は、線路敷設前から生活道だった所が多い。JR西日本広島支社によると、全15・6キロの可部線には少なくとも数百カ所ある。今回の事故が起きた長束地区の勝手踏切も、明治期の線路敷設前には「里道(りどう)」と呼ばれる古くからの生活道路だった実態を踏まえ、封鎖されてこなかった経緯がある。
JR側は通常、看板などで立ち入り禁止を呼び掛け、事故などが発生して危険と判断した場合には住民の同意を得て閉鎖している。ただ、「住民の同意はなかなか得られない」と同支社。昨年度に閉鎖できたのは東広島市内の山陽線の1カ所だけだった。
▽摩擦生む場合も
全国では住民の理解を得ないまま閉鎖した結果、摩擦を生んだケースもある。京都府宇治市のJR奈良線では、高齢者の死亡事故などを受けて計5カ所を16年に閉鎖したが、地元は「説明が不十分」などと反発。JR側に正規の踏切設置を求め続けている。
今回の事故現場はどうなるのか―。線路の両側のフェンスに張り出された文書には「6月に柵の設置を予定しています」とある。JR側は地元の自治会と話し合いを続けているが、同意は得られていない。閉鎖時期の延期も視野に入れている。
広島大大学院国際協力研究科の藤原章正教授(交通工学)は「事故が起きれば人命に関わるだけでなく、広い範囲で利用者に影響が生じる。住民が事故の重大性を理解することが大切で、JR側にも丁寧な説明が求められる。双方がよく話し合い、最適な対応を探るべきだろう」としている。
あなたにおすすめの記事
こちら編集局です あなたの声からの最新記事
-
【こちら編集局です】広島県と広島市、公共施設の休・開館の判断は 運営の協議・調整なく (1/18)
▽休館→広島市、コロナ対策で独自基準/開館→県、市民生活への影響最小限に 新型コロナウイルス感染防止対策で、広島市内の図書館など市民に身近な公共施設の運営に関して広島県と市の対応が分かれている。市が...
-
【こちら編集局です】広島県、コロナ集中対策再延長 感染防止強化に理解 時短効果疑問視も (1/14)
広島県が14日、新型コロナウイルスの集中対策期間を2月7日まで再延長する方針を決めた。広島市で国の緊急事態宣言の対象地域に準じた対策を講じ、飲食店への営業時間短縮の要請エリア拡大など、従来より強化す...
-
【こちら編集局です】「安倍氏説明を」多数 政治へ不信感や怒り (12/22)
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填(ほてん)問題で、安倍氏が東京地検特捜部から任意で事情聴取を受けた。編集局は22日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者...
-
【こちら編集局です】Go To停止「遅すぎ」 政府の対応、批判が大半 (12/15)
「中止は当たり前」「判断が遅すぎる」―。菅義偉首相が14日夜、表明した観光支援事業「Go To トラベル」の全国一時停止。表明後、編集局が無料通信アプリLINE(ライン)を通じて意見を募ると、約2時...
-
【こちら編集局です】「じわる」若者言葉、まじ「レベち」 SNS世代の新語、考察してみた (12/6)
▽スマホ入力→省略して即レス/他人に同調→あえて断定せず 若者の会話やネットの投稿で、不可思議な言葉に出合うことはありませんか。周囲の親世代からも「あれってどういう意味?」との声が聞こえてくる。調べ...
「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。
LINE公式アカウント
メール
「こちら編集局です」ご意見・情報提供はこちら
郵送
広島市中区土橋町7-1
中国新聞社
「こちら編集局です」係
ファクス
「こちら編集局です」係
082-236-2321