大量パイプ、どこから 業者廃棄時に混入の指摘も
広島県内の業者が使うカキ養殖用のプラスチックパイプが瀬戸内海沿岸の各地に漂着し、山口県が広島県に防止策を求めている。「カキ殻の集積場に大量のパイプが交ざり、これが漂着ごみとなるのではないか」。カキ殻を肥料や飼料に加工する会社に勤める広島市東区の山田諭一郎さん(47)から、こんな声が編集局に届いた。
▽「カキ殻集積場から流れ出て、漂着ごみに…」
広島湾内の坂町の岸壁沿いにあるカキ殻の集積場を訪ねた。カキ業者や漁協ごとに持ち込まれるカキ殻の山でパイプを拾い集めると、数分で7・5リットル入りのバケツがいっぱいになった。
「潮が満ちると、カキ殻の山は海水に漬かるが、軽いパイプは流れ出てしまう」と山田さん。カキ殻を肥料や飼料に加工する際には、混入したごみを一つ一つ手作業で取り除いているという。
カキ養殖用パイプは長さ約20センチ、直径約1センチ。ホタテ貝に付けたカキの稚貝同士の間隔を保つために使われている。竹を使っていたが、1960年代以降、安価で耐久性の高いプラスチックパイプが普及したという。
▽県内推計3億本
現在、県内には広島湾を中心に約1万2千台のカキいかだがある。いかだ1台当たりの平均的なパイプの量から推計すると、県全体で計約3億本のパイプが使われているとみられている。
「大切な資材をわざと捨てる業者はいない。ただカキに付着した藻や泥を洗い流す時にパイプが交ざり、カキ殻と一緒に集積場に落としてしまう業者もある」と、広島湾で50年以上カキ養殖を続ける男性(73)は打ち明ける。千本に1本落としただけで毎年約30万本が流出する計算だ。カキいかだは海上にあるだけに、船の衝突や波の力でカキをつるす針金が切れ、流れ出るケースもあるという。
大量のカキ養殖用パイプが周防大島の海岸などに流れ着いている状況を踏まえ、山口県は5月8日、流出防止対策の徹底を求める要望書を広島県に提出した。
▽買い取り制導入
では、カキ業者側の対応は―。業者が加入する県内31漁協でつくる県西部漁業振興対策協議会は2000年から県外の市民団体が海岸清掃で集めたパイプの買い取りをしている。
再利用可能なものは新品と同等の5キロ当たり800〜1100円、再利用できないものは200円で引き取る。16年度は買い取りと輸送費を含めた処理費が316万円に達した。
山口県からの要望を受け、カキ業者も危機感を募らせる。5月9日に開いたカキ養殖を扱う広島県内36組合の組合長会議では、今夏にも業者自らが周防大島での清掃活動をすることや、買い取り制度の見直しなどの検討を申し合わせた。
県漁連の渡辺雄蔵専務理事は「世界的に海のプラスチックごみへの問題意識が高まっている。広島県産カキのブランドを守るためにも重大な問題。生産者への指導も厳しくしていく」と強調する。
広島県も6月、パイプを含む県内の海岸漂着ごみの調査を始めた。来年3月末までにまとめる結果を踏まえ、根本的にごみを発生させない仕組みの検討を始める方針でいる。(永山啓一)
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