顧問暴言、すさむ部活 人格否定「未熟な行為」
「学校の部活動で、息子がひどい指導を受けている」。そんな電話が編集局に寄せられたのは、日本大アメリカンフットボール部の悪質な反則問題が起きた直後だった。指導者の暴言や威圧的な態度に追い詰められる学生の姿が、息子と重なって映るという。会って話を聞いた。
▽反論できない
電話の主は、広島県内の公立高に通う男子生徒の父親だった。息子が所属する運動部の男性顧問の暴言がひどく、子どもたちは顔色をうかがう日々だと窮状を訴えた。「殴る蹴るだけが暴力ですか。心の傷は消えませんよ」
父親が持参したメモは、息子から聞き取った顧問の言動で埋まっていた。「バカが。クソガキが。もう学校も辞めたら?」
部員を並ばせて練習態度や学業の成績をあげつらい、すごむ。期待に沿うプレーができない選手を無視する。そうされても指導を求め、「お願いします」と懇願する部員たち―。
息子は、顧問の理不尽さに不満を募らせるが、怖くて反論できないという。父親は強い口調で指摘する。「人格を否定するような言動が繰り返されて、子どもの心がすさんでいる。生徒を信じ、主体性を育もうとの姿勢もない。『厳しさ』を履き違えた指導だ」
別の公立高運動部に所属する男子生徒の父親も、編集局に電話をかけてきた。それも驚かされる内容だった。
男性顧問は部活動に休養日を設けず、長時間練習を部員に課していた。その方針に対し、外部から苦情があったらしい。顧問は部員を集めると、こう言い放った。「おまえらの親がチクりやがって。部の伝統を邪魔するんがおる」と。
休養日の設定は体調管理の観点から、文部科学省などが重ねて学校に求めている対応だ。電話口の父親は「教員が時代の変化に追いついていない。暴言で、古い考えを押し通そうとしている」と嘆いた。
▽毅然と対応を
威圧的な指導は、なぜまかり通るのか。ある母親は「子どもが人質に取られているようなもの。何も言えない」とこぼす。行動すればわが子が居場所を失い、内申点にも悪い影響が出るかもしれないと不安がる。
保護者や生徒の中には、勝利至上主義の「熱血顧問」を求める声もある。部活動の好成績は推薦入試の材料になるからだ。学校側も、強豪であることを特色として打ち出したいため、熱血指導を黙認するきらいがある。
「暴言などで精神的苦痛を与えることも体罰。感情に任せた未熟な行為だ」。学校の体罰問題に詳しい安田女子大の竹田敏彦教授(学校教育学)はそう断じる。「謙虚に教育観を省みて、生徒の人格形成を後押しするプロとして、ふさわしい行動かどうか自問してもらいたい」と話す。
さらに竹田教授は、学校に自浄する力を求める。「同僚の暴言を傍観していないか。部活動の成果を重視するあまり、実績あるベテランに物を言えない雰囲気はないか。校長など管理職が毅然(きぜん)とした態度で、体罰は決して許されないとの認識を示さなくてはならない」(奧田美奈子)
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