被災地の姿、ここにも 「温品地区の被害も知ってほしい」
「被害の大きな地域に焦点が当たる。温品地区(広島市東区)の被害も知ってほしい」。電話口で匿名の男性はそう訴えた。早速、安佐北区可部の安佐北支局から車で急行した。寸断された生活道路、削り取られた護岸―。確かにここにも西日本豪雨の被災地があった。
カーナビゲーションを頼りに向かった。景色を見る限り、沿道は日常を取り戻している。しかし、温品小の手前に差し掛かると、市道の一部が護岸ごと、府中大川に削り取られていた。回り道して、さらに上流を目指す。
▽護岸が40メートル崩落
行き着いた石原田団地では、護岸が高さ約10メートル、幅約40メートルにわたり崩落していた。土台を削られ、斜面ぎりぎりで踏みとどまった民家も確認できる。
近くに住む西本栄子さん(75)は6日夜の恐怖をこう語る。「ビリビリっとガードレールが剥がれ落ちる音が響いた」。崩落で周辺の約10軒は人も車も一時、出入りできなくなった。
住民が力を合わせ、民家の隙間や庭を伝う通路を確保した。途中にある塀は高さ約2メートル。はしごで上り下りした。子どもにとって危険な上、荷物を持っては越えられない。近くの会社員男性(27)が知人に依頼して金属製の階段を急きょ設けた。男性は「でも道路が直らないと車を出せない」とこぼす。
▽「作業休みなし」
崩落現場では、県が10日から応急工事を始めた。重機3台で土のうを積む。歩いて通れる状態にするまで、工事はまだ半ばだ。「作業員は休みなしで頑張っとるんですが…」。現場監督の男性(55)は声を絞り出した。
「作業員や重機、材料は被災地で取り合いだ。広域多発が、復旧の進み具合に影響している」と明かす。
この現場を写真に収める男性がいた。約350メートル南西に住む藤本信之さん(63)だ。
自宅前の応急工事はまだ、始まってもいない。この現場が終われば自宅前でも始まると聞き、進み具合を毎日撮影する。
「他地域に比べたら、温品地区は被害が小さいので言いづらいのだが」と藤本さん。「今後、台風などに襲われれば自宅前の道はさらに崩れる。せめて土のうを何個かでも置いてほしい」と焦る。
「行政から何も説明がないから不安が募る。日程の見通しだけでも教えてほしい」と付け加えた。
現場で聞いた声を、県西部建設事務所にぶつけた。担当者は「緊急性の高い箇所から取り掛かっている。県全体が被災し建設業者が足りない」と率直に明かした。
匿名電話の主には結局、たどり着けなかった。それでも、「知られざる被災地」がまだ数多くあることをあらためて実感させられた。(山田英和、写真も)
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