平和公園の将棋、姿消す? トイレ移設、広島市が用具倉庫撤去へ
「平和記念公園で、将棋や囲碁ができなくなる。半世紀続く憩いの場なのに」。こんな悩みがつづられた手紙が編集局に届いた。差出人は広島市安佐南区の愛好家の男性(76)。一体、何が起きたのだろうか。早速、公園へ向かった。
秋晴れの昼下がり。広島国際会議場(中区)北側の公衆トイレそばの木陰で、約40人のお年寄りが将棋や囲碁を楽しんでいた。確かに平和記念公園では見慣れた光景だ。市内の愛好家が集っては、気の向くままに楽しんでいるという。
▽「盤の保管場所」
手紙を寄せてくれた男性に会えた。「将棋盤や木製の椅子の保管場所が、のうなってしまうんよ」と訴える。市の公衆トイレの倉庫(4平方メートル)を使用させてもらってきたが、本年度いっぱいでトイレごと撤去されるらしい。
「自転車やバスで通うのに、重たい盤を持ってくるわけにもいかん。年寄りの居場所なのに…」。周りの男性からも怒りや戸惑いの声が聞こえてきた。
▽維持管理に不要
公園を管理する市の担当者によると、トイレは1981年建設。老朽化のため撤去し、公園内の別の場所に移設される。愛好家は代わりの倉庫の設置を求めているが、市は「公園の維持管理のために必要な施設と言えず認められない。将棋を楽しむのは構わない」との立場だ。
そもそも平和記念公園での「青空将棋」はいつ頃始まったのだろう。中国新聞で探すことができた一番古い記述は1970年8月5日の朝刊。「(平和記念公園の)陰緑で囲碁や将棋を楽しむ市民ら」とある。少なくとも50年近く前からあった風景のようだ。
「その頃は徹夜でしよる人もおった」。約50年前から通う男性(81)は懐かしそうに振り返る。そしてこんな話をしてくれた。誰が造ったかは不明だが、当時はトタン板で囲った小屋があり、盤などを入れていたという。
ところが約10年後。市は小屋を撤去したが、引き換えに新設したトイレに倉庫も造ってくれたというのだ。倉庫の鍵は今も愛好家が持っている。だが市は「そのような記録は残っていない。経緯は全く分からない」とする。
「公平性の観点から特別扱いできない」という市の言い分も分からないわけではない。一方で、復興期の市民の娯楽として青空将棋が広がり、市も尊重して倉庫を提供したというエピソードが事実ならば感慨深い。
原爆で焼け野原になった広島。今に息づく一つ一つの営みに、復興の歴史があると気付かされる。倉庫がなくなるという理由で青空将棋が姿を消すとしたら、何とももったいない気がする。
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