「妊婦加算」知ってる? 4月導入、認知度低く抵抗感
「病院を受診したら通常よりも多く支払わされました。妊娠中だからという理由で」。広島市西区の会社員女性(41)から、こんなメールが編集局に届いた。今春、国が導入した「妊婦加算」について、「みんなが納得している制度なの?」と疑問を投げ掛ける。早速、取材した。
女性は臨月だった10月、内科を受診した。会計を済ませてから、明細に見慣れない「妊婦加算」の項目を見つけた。3割負担で230円が上乗せされていた。「病院から何の説明もなかった」と戸惑いを見せる。
加算は4月の診療報酬改定で導入された。妊婦が医療機関(歯科を除く)を受診すると徴収される。市内で妊婦10人に「妊婦加算を知っていますか」と尋ねた。7人が「知らない」。知っていた人からも逆に質問された。「妊婦というだけでなぜ高くなるの?」
「少子化なのに」
疑問の声は無料通信アプリLINE(ライン)でも寄せられた。「少子化が問題視されているのに」「逆に、妊婦さんの負担は軽くしてあげてほしい」…。
なぜ妊婦は多く支払わないといけないのか―。中国四国厚生局指導監査課の多田稔課長は「妊婦は服用できない薬があったり感染症リスクが高かったりする。そういった難しさに対する適切な診断や診療を評価するため」と説明する。
さらに、こう加えた。「報酬を付けることで、産婦人科以外の医師にも妊婦を診療する意識を一層持ってもらう狙いもある」
つまりは、妊婦の診療に苦手意識を持つ医師に対し、「敬遠しないで」というメッセージなのだろう。
実際、広島市中区の産婦人科医に聞くと「高熱を出した妊婦さんが、内科医に『診られない』と断られたからと、うちに来ることは頻繁にある。妊婦が服用できる薬に不慣れなドクターも多い」と明かす。
負担分散が狙い
産婦人科医に負担が集中すると、いざというときに妊婦が必要な医療を受けられなくなる恐れも生じる。加算によって、かかりつけ医で診てもらえる環境が広がれば負担は分散されるという考え方のようだ。
理屈は一定に理解できる。それならなぜ、導入前に周知を徹底しなかったのだろう。
「妊婦加算の議論なんて聞いたことなかった」という声は多い。今回の診療報酬改定は介護報酬の改定とも重なり、超高齢社会への対策などで膨大な項目があったため埋もれた感がある。広島市内の30代勤務医も「妊婦加算を知らない医師は多い」と明かす。
出生率を回復させるには、妊婦が安心して医療を受けられる体制づくりは絶対条件のはず。なのに医師の意識向上のために妊婦が負担を強いられるのは、やはり理解が得にくいのではないか。(久保友美恵、東海右佐衛門直柄)
<クリック>妊婦加算 妊婦が医療機関を受診した際、病名や診療科(歯科を除く)にかかわらず診療費が上乗せされる制度。厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会が2年ごとに改定する診療報酬で、本年度から定められた。支払いは自己負担3割の場合、初診で230円、再診で110円増える。深夜や休日はさらに増額される。
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