断水で損害、個人賠償は 「入浴などで周防大島町外へ。出費かさむ」
大島大橋への貨物船衝突事故で断水する山口県周防大島町の町民が思わぬ出費に苦しんでいる。給水用タンクの購入や入浴のために島外へ出掛ける交通費。断水事故の取材を進める中、「かかった費用を船会社に請求できるのか」と町民から何度も疑問を投げ掛けられる。個人の賠償請求はどうなるのか。専門家や行政に聞いた。
▽知事ら支援表明 「訴訟は可能」も高い壁
同町久賀のパート女性(43)は事故後、風呂水を有効利用するための追いだき機を約2万円で購入した。「思わぬ買い物だった。水が使えないので料理でも無洗米を買うなど費用がかかる」と訴える。給水所では真新しいポリタンクを持ち込む町民たちの姿も目立つ。100リットル以上入る大型タンクを購入し、軽トラックに載せる人もいる。
▽往復60キロ車運転
同町久賀の浜中高男さん(81)は2、3日に1度、洗濯と入浴のため対岸の柳井市や平生町へマイカーで行く。「往復60キロ走ることもありガソリン代がかさむ。紙食器や出来合いの料理を買うのも負担が大きい」と嘆く。
個人の出費は取り戻せるのか―。海難事故に詳しい藤木啓彰弁護士(大阪弁護士会)は「船会社を相手に損害賠償請求訴訟を起こすことは可能」とする。村岡嗣政知事は14日の記者会見で「被害を受けた町民は当然請求できると思うだろう。法的にサポートしたい」と述べる。椎木巧町長は「町が弁護士を雇い、町民が相談できる場を設けることを検討している」と明かす。
ただ実際に訴訟を起こすのは相当にハードルが高い。村岡知事が「何をもって損害かは難しい」と言うように請求の認定には出費と事故の因果関係を明らかにする必要がある。猪俣俊雄弁護士(山口県弁護士会)は「領収書など証拠は残しておいた方がいい。事業者も前年との売り上げ比較ができる資料があれば」と助言する。
▽上限定める法律
もう一つの壁は船主の賠償責任に上限を定める法律の存在だ。船舶事故は被害額が甚大となるため、法に基づいて船会社が制限を申し立てれば、債権者はその範囲内で賠償金を分け合うことになる。
県や町は損壊した橋や水道管の復旧費をはじめ、給水活動にかかった費用も請求する方針。観光業者などの損失も含めると額はさらに膨らむ。ある弁護士は「パイの奪い合いになり、行政や住民間で利害対立が生じる恐れもある」と指摘する。
「損害は全て要求する」と強調する村岡知事だが、船会社の責任制限の申し立てを見越し「相手との交渉もうまくやらないといけない」と慎重に語る。
船会社側は「被害調査と救済処置が最優先課題」とする。一方、申し立てについては「法的問題に関して報道での議論に関与しない」と方針を明らかにしていない。
事故の発生から4週間。ずさんな航行計画による人災であることが浮き彫りとなる中、泣き寝入りの収拾では多くの町民は納得できないだろう。
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