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救助者が見たあの日<4>【消防団】自らも被災、命懸けで奔走

2018/12/1 0:00
消火栓を点検する坂本さん(左)。「これからも生まれ育った町を守りたい」(広島県坂町小屋浦)

消火栓を点検する坂本さん(左)。「これからも生まれ育った町を守りたい」(広島県坂町小屋浦)

 「洋司、助けて」。聞き覚えのある声だった。広島県坂町消防団小屋浦分団の団員、坂本洋司さん(43)は、知り合いの老夫婦が、平屋の自宅で胸まで土砂に埋まっていたのを見つけた。7月7日早朝。前夜の豪雨は小雨になっていた。夜明けを待って捜索を始めた自衛隊員たちを案内していた時だった。

 辺りを見回すと、あちこちの住宅で、2階の窓やベランダから住民が顔を出し、手を振っていた。「まだこんなに残っていたのか」。がくぜんとした。

 西日本豪雨で土石流が発生し、15人が亡くなった小屋浦地区。団員は自衛隊員たちから道案内を頼まれた。家が流されて道も分からなくなり、風景が一変した地区での捜索は土地勘がなければ困難だった。ここで生まれ育ち、入団7年目の坂本さんが手を挙げた。

 道を流れる濁流の勢いは衰えていない。消防隊員から「危なくなったら吹いて」と笛付きのライフジャケットを手渡された。普段は地元病院の事務職員。「何かあったら子どもたちを頼む」。同じ団員のいとこ(38)に伝え、ロープを伝って濁流を山側へ向かった。

 孤立した被災地では特に、地元消防団が住民の避難や救助で大きな役割を担った。地域の防災力の要である団員もまた、被災者だった。

 ▽家族案じながら

 坂本さんは6日夜、住民を避難誘導していたさなか、自宅駐車場にあった自分の車が流されてくるのを目撃した。家族に電話すると、「逃げる所がない」と切れた。既に家には近づけなかった。家族は無事避難していたが、自宅は半壊。身内の安否を案じながら、避難誘導に奔走した。

 小屋浦分団員26人のうち約10人の自宅が全壊した。それでも団員には、近所から助けを求める電話が相次いだ。団員は、無料通信アプリLINE(ライン)に被害状況の報告を刻々と寄せた。

 副分団長の河本一信さん(61)は行方不明者の捜索に加わった。全壊した自宅の片付けに本格的に着手したのは被災の3週間後。「団員のみんなも、自分のことは後回しだった」

 犠牲になった消防団員もいる。豪雨で大きな被害を受けた呉市安浦町中畑の市原集落。加川和見さん=当時(66)=は7月6日夜、土のうを積みに一人で近所の現場へ向かい、軽トラックごと土石流に流された。

 東日本大震災では、消防団員の死者・行方不明者は254人にも上った。市消防団はこれまで、災害現場での安全管理について団員向けの講習を開いていた。加川さんの死を受けて8月、水害時の活動マニュアルを初めて作ることを決めた。

 ▽公務災害に認定

 消防団員は非常勤特別職の地方公務員。7月6、7日の活動で公務災害と認定されたのは、広島県内で加川さんを含めて少なくとも5人。うち3人が骨折などの重傷を負った。「団員が被害に遭うことはあってはならないが、危険な現場へ行くことは避けられない」と県消防保安課の倉迫昭宏課長は言う。

 加川さんは42年間、消防団で活動した。妻いづみさん(63)は「今回の豪雨は、経験で何とかなる規模ではなかった。夫の死を、団員の命を守る方策に生かしてほしい」と語る。

 <クリック>消防団 地域住民でつくる消防機関で、消防組織法に基づき市町村が設置する。団員は非常勤特別職の地方公務員。消防署と協力し、火災の消火活動や避難誘導にあたる。定員や報酬は市町村ごとに異なる。広島県では1人につき年間数万円の報酬がある。災害や火事などで出動した1回の手当は700〜6500円ほど。総務省消防庁によると、全国の消防団員数は85万331人(2017年4月1日現在)。1965年には133万995人いたが、高齢化などの影響で減少している。広島県内の団員数は2万1975人(18年4月1日現在)。

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  • 小屋浦分団の7月6日夜のラインのやりとり(画像の一部を修整しています)

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