引きこもる子、親も高齢化 「私が死んだ後、息子はどうやって生きていくのだろう」
▽「チームで支える」体制を
「私が死んだ後、息子はどうやって生きていくのだろう」。広島市の女性(69)は無料通信アプリLINE(ライン)で、こんな言葉を寄せた。40代半ばの息子が引きこもりを続けているという。女性を訪ねた。たった一人で不安と闘っていた。
息子は20歳ごろ、体調を崩して仕事を辞め、家にこもるようになった。夫とは早くから別居。女性は65歳まで会社勤めをして、1人で息子を支えてきた。
息子は事あるごとに母を責めた。幼い日、しつけと言って殴る父を制止しなかった、仕事ばかりで向き合ってくれなかった…。気が済むならと要求を聞くうち、意見できなくなった。
こうして20年以上が過ぎた。今も精神科や支援機関につながるよう促すことができない。自身の生命保険が、精いっぱいの「親亡き後の備え」だ。
女性は毎日、願い事をノートに書いている。もっと親子の会話ができたら、息子が笑ってくれたら―。いつも自分に言い聞かせている。「一日でも長く、生きなければ」
▽「8050問題」
同じような悩みを抱える高齢の親は、実は少なくない。11月、広島市であったNPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会(東京)の全国大会の中心テーマは「8050問題」だった。80代の親が50代の無収入の子を支えるという構図が社会問題化している。背景の一つに、引きこもりの長期化がある。
会場では、行く先が見えず途方に暮れる親たちからさまざまな声が上がった。自分が死んだらわが子はどうなるのだろう。いくら残せばいいのか、誰を頼ればいいのか。買い物は、ごみ出しは…。
引きこもりを、国は「若者の問題」と捉えてきた傾向がある。2009、15年度の実態調査では、40歳以上は対象外だった。本年度、ようやく40〜64歳も対象に加えた調査に着手した。対策が後手に回っている印象は否めない。
▽40歳以上5割超
中国地方では島根県が13年度、鳥取県が本年度、年長者も含めて実態を調査している。両県とも40歳以上の人が5割超という結果だった。すなわち引きこもりは、若者に限らず中高年やその親世代の問題でもあることが分かる。一方で広島、山口、岡山は調査の予定はないとしている。
20年以上引きこもりの取材を続けるジャーナリストの池上正樹さん(56)は「ゴールが『就労ありき』の引きこもり支援から、親亡き後も地域で生きていくためのサポートに転換する必要がある。それなのに、多くの自治体で現状認識が追いついていない」と指摘する。「多様な生き方を認められるよう、地域で受け皿となる先や暮らし方のモデルを掘り起こすのも行政の役目ではないか」
ただ、引きこもりが長引き、高齢化した当事者へのアプローチはとても難しく、まずは家族とつながることが重要だと複数の専門家が説く。
その一人、愛知教育大の川北稔准教授(44)=社会学=は「外部の支援者が一家に入り込む隙間はわずかしかない。その隙間を探すには多様な視点がいる」と話し、支援はチームで当たるべきだとみる。チームを構成するのは、精神保健福祉士といった専門職に限らない。「『あの家族、心配だな』という地域の細い糸をつないでいくことも有効なのではないか」
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