ピースサイン不謹慎? 原爆ドーム前での記念撮影
「原爆ドーム前での記念撮影でピースサインをする観光客がいる。配慮が足りないのではないか」。平和記念公園(広島市中区)を毎日散歩するという西区の男性(76)から編集局に声が寄せられた。平和(ピース)への願い、楽しさの表現、勝利のアピールなど多様な意味を含むとされるこのポーズ。原爆ドーム前では控えるべきなのだろうか。
原爆ドーム前で観察すると、ピースサインをするのは日本人観光客、特に若者に多い傾向が見てとれた。ドーム周辺で、広島市民や観光客など男女計50人に「ドーム前でのピースサインに違和感があるか」と尋ねると、「ある」が35人と7割を占めた。「ない」は12人、「どちらとも言えない」が3人だった。
「ある」と答えた人の多くは「楽しい時にするものだから」と、違和感の理由を話す。原爆死没者の慰霊に訪れた前橋市の生方百合子さん(84)は「苦しんで亡くなった人を思うとやりきれない。原爆ドーム前ではそぐわない」と眉をひそめる。
▽広島の観光地
一方、違和感が「ない」人の多くが挙げた理由は「カメラを向けられると反射的にするものだから」。神奈川県の会社員女性(32)は「原爆ドームは『広島の観光地』。自然に定番ポーズをとっただけ」と話す。
違和感の有無にかかわらず「問われるまで考えたことがなかった」という人も半数以上いた。ピースサインをしていた京都市の男子大学生(22)は、記者が動機を問うと、はっとした表情で友人と顔を見合わせた。「言われてみれば、不謹慎だったかもしれない」
▽想像力が必要
被爆者はどう受け止めているのか。原爆ドーム東隣に生家があった中区の映像作家田辺雅章さん(81)は「ピースサインをする人は、原爆が落ちるまでそこに街があり、人の生活があったことを想像できていないのでは」と残念がる。
「ドーム前では厳粛に」―。そんな看板でもあれば、ピースサインをする人は減るかもしれない。ただ、平和学習プログラムを開発するNPO法人「これからの学びネットワーク」(中区)の堀江清二代表理事(46)は「ピースサインをするなと強要しても、考えを深めることにつながらない」と懐疑的だ。
「静かに聞きなさい」との指示に従い、被爆者の話を神妙そうにうつむいて聞く生徒が話を深く理解しているとは限らないことを、多くの生徒に接する中で感じてきたからだ。「大事なのは自分の頭で考えること。若者に『戦争は年配者が主人公の話』ではないと気付かせ、今日的な平和の意味を考える機会を与えることこそ、広島の役割ではないか」と投げ掛ける。
原爆投下から今年で74年。被爆者が高齢化する中、次世代に史実をどう伝えるか、原爆ドームを訪れてもらう意義とは―。観光客が無意識に繰り出すピースサインは、考えるヒントを与えてくれる気がする。
取材中に、思いがけないことも起きた。話を聞いた京都市の男子大学生が30分後に戻ってきて、ピースサインをしたことを「後悔している」と打ち明けてくれた。記念撮影の後、原爆ドームの解説を読み、自分なりに考えたのだという。そして、こう続けた。「京都に帰ってから、もっとちゃんと勉強して、知りたいと思います。原爆について」(東聡海、山本真帆)
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