コラム・連載・特集

「福岡のタクシー。芸人似の女性に乗り逃げされた」 運転手、泣き寝入り

2019/3/9 0:00
ブルゾンちえみさん

ブルゾンちえみさん

 「人気お笑い芸人のブルゾンちえみさん似の女性に乗り逃げされた」。福岡市のタクシー運転手男性(60)から西日本新聞の「あなたの特命取材班」に悲痛な訴えが届いた。常習犯の疑いもあり、タクシー協会が注意を呼び掛ける事態になっている。

 ▽時間惜しみ「自腹」処理も

 男性は昨年3月ごろ、明け方に同市中心部の歓楽街、中洲で1人の女性を乗せた。30歳前後で、おかっぱ頭。色白で、身長は165センチくらいだった。

 同市東区のマンションに着くと、女性は「お金がないので取ってくる」と言って車を離れた。10分、20分と待つが、一向に戻ってこない。タクシー代は約2400円。メーターが回った売り上げは会社に納めねばならない。男性は報告せず、自腹を切ったという。

 被害者は男性だけではなかったようだ。福岡市タクシー協会は昨年9月、「乗り逃げ事案の発生・手配について」という文書を加盟各社に配った。乗り逃げした人物とみられる実名を挙げ、乗務員の主観として「『ブルゾンちえみ』を崩した感じの女性」とある。

 文書によると、女性は中洲から同市東区のマンションまで乗車。「お金がないので家から持ってきます」と住民基本台帳カードを運転手に見せ、住所や名前などを告げた上で降車した。その後姿を見せず、運転手が部屋に行ったものの連絡が取れなかった。警察に相談すると「女性が実際の住所などを告げており、直ちに詐欺事件として扱うのは難しい」と言われた、という。

 運転手が警察に届けた場合、事情聴取のため数時間動けなくなる。その間の売り上げも得られない。「運転手の間では、数千円なら乗り逃げされても会社や警察に伝えず、泣く泣く自腹を切るケースが少なくない」と男性は明かした。

 インターネット上でも話題になった。ブルゾンさんもテレビ番組で「福岡県でタクシーの無賃乗車をする女性がいるらしい」と明かした。「私じゃないです。早く捕まれー!」(西日本新聞)

 ▽広島でも被害相次ぐ

 乗り逃げは広島市内でもあるのか。JR広島駅前で待機中のタクシーに片端から声を掛けた。5台目で市内のA社の運転手男性(68)が「昨年末にやられた」と記憶をたどり始めた。

 「南区で乗せた30代の男。追い掛けると『今度払う』の一点張り」。午前2時。早く乗務を終えて帰りたかったこともあり、会社にも報告しなかった。

 台数の多い数社に尋ねると、乗り逃げは車内の防犯カメラ(ドライブレコーダー)が普及したここ10年で格段に減ったという。だが、B社の幹部は「減ったとはいえ、うちは元日の昼間にやられたばかり」と明かし、市内での乗り逃げ件数を「他社も含めて年に200件より多いはず」と見立てる。

 本当にそうなのか。県タクシー協会で確かめると「把握しているのは県内で年に数件」という。2016年度4件、17年度2件。18年度は3件。いや、これは氷山の一角なのではないか。なぜなら記者が聞いたA社とB社の件は含まれていないからだ。

 「客がコンビニに立ち寄ったまま消えた。出入り口が二つある店だった」「『人を連れてくる』と言ってビルに入ったきり戻ってこなかった」―。ほかの運転手からも、ここ数年で遭ったさまざまな被害を聞いた。なぜ表面化しないのか。取材を進めると背景が見えてきた。

 その一つが、福岡市の運転手男性も告白した「自腹」処理だ。広島市内のC社の幹部は「少々の金額なら諦めて流せ、と運転手には言っている」と話す。運転手が会社に報告しなければ、常習犯がいても業界で情報を共有できない。

 運転手の給与が歩合制なのも、報告をためらわせる一因のようだ。「労使協定で、警察に調書を取られる間に得られたはずの収入は補償する」(B社)ケースもあるが、他社の運転手たちの話によると、救済策のある会社は一部しかない。

 タクシー運転手を巡る環境は厳しい。厚生労働省の17年調査では、男性運転手の年間賃金は推計で333万2900円。全産業の男性労働者の6割にすぎない。広島県は264万2500円と特に少ない。

 D社の運転手男性(45)は昨春、朝帰りの30代男に踏み倒された。数百円とはいえ、手取り約20万円の月収がさらに減った。「証拠の録画があるから次は必ず警察に連れていく。なめられてばかりはおれん、こっちも生活がかかっている。しょうもないことすなやと言いたい」(馬場洋太)

この記事の写真

  • 広島市内を走るタクシー。ルームミラーの左にあるのがドライブレコーダー(画像の一部を修整しています)

上記の写真をクリックすると拡大して表示されます。

  • 「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。

  • LINE公式アカウント

    LINE友だち登録またはQRコードから友だちになってトークをしてください
  • 郵送

    〒730-8677
    広島市中区土橋町7-1
    中国新聞社
    「こちら編集局です」係

    ファクス

    中国新聞編集局
    「こちら編集局です」係
    082-236-2321
  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

こちら編集局です あなたの声からの最新記事
一覧

パートナー社

  • 中国新聞「こちら編集局です あなたの声から」は、双方向型の調査報道に取り組む全国のパートナー社と連携協定を結んでいます。記事をお互いの紙面やウェブサイトに掲載したり、情報の取り扱いを十分に注意した上で取材・調査テーマを共有したりします。地域に根を張るローカルメディアがつながり、より深く真相に迫っていきます。

北海道新聞 東奥日報 岩手日報 河北新報 新潟日報 東京新聞 信濃毎日新聞 中日新聞東海本社 岐阜新聞 京都新聞 神戸新聞 まいどなニュース 徳島新聞 西日本新聞 琉球新報