広島城トイレ、なぜ紙ない 「PRに力を入れる観光地として問題では」
「広島城(広島市中区)へ行った際、公衆トイレにトイレットペーパーがありませんでした。観光地として問題では」。西区の60代女性から無料通信アプリLINE(ライン)で声が届いた。広島城といえば本年度、旧広島藩主の浅野長晟(ながあきら)入城から400年を迎え、市もPRに力を入れている名所だ。状況を調べてみた。
▽盗難防止 天守閣手前は「特別」設置
女性は今月1日に広島城の企画展を見に行った。公衆トイレを利用したがトイレットペーパーがない上、ごみが散乱して便器も汚れていたという。「国内外の人が訪れる場なのに。市民として恥ずかしかった」と話す。安芸区の主婦(64)からも同様の訴えが届いた。
広島城天守閣の周辺には4カ所のトイレがある。その中の二の丸に渡る御門橋手前のトイレに行ってみた。中に入ったばかりの外国人が、すぐに出て来たのが見えた。観光に訪れたオーストラリア人女性(30)で、「ペーパーがなくて」と困っていた。
トイレ入り口には「トイレットペーパーを備え付けておりません。必要な方は遊覧船事務室へお声がけを」と日本語で書いた張り紙があった。記者が15メートル先にある事務室を訪ねると、スタッフがトイレットペーパーを貸してくれた。記者からこの女性に渡し、「貸し出し」の仕組みを説明すると驚いていた。
遊覧船を運営するのは中区のNPO法人だ。法人スタッフによると、貸し出しは昨春始めたという。「観光客が困っているのでトイレを管理する市に相談し、市が現物を用意して私たちが貸す形になったんです」
広島城跡一帯は広島護国神社の敷地を除き、市中央公園の一部だ。同公園を管轄する市緑政課によると、公園内の全トイレにトイレットペーパーは置いていない。10年以上前からの方針という。久波一行課長は「利用者にとって不便なのは承知している」としつつ、「過去にトイレットペーパーが盗まれたり、芯を流すいたずらをされたりしたため」と説明する。
ここで一つ、疑問に思うことがあった。市の管轄なのに、天守閣手前トイレにはトイレットペーパーがあったのだ。取材すると天守閣側のスタッフが「特別に」設置している事実にたどり着いた。
広島城の玉置和弘・主任学芸員(51)によると「トイレットペーパーがないのは観光客へのサービスとして好ましくないと職員で協議し、取り組み始めた」。天守閣内にはトイレがないため、来場者の多くがこのトイレを利用するという。
トイレットペーパーは備えない―。市がこんな方針を示す中、観光客と日々接する遊覧船事務室や広島城のスタッフは何とかニーズに応えるため、次善策を取っていることが分かった。
観光地のトイレは極めて印象に残るものだ。その街の優しさや成熟度を知る目安でもある。広島城は年間30万人超が訪れる広島県が誇る観光地だ。このままでいいとは思えない。(久保友美恵、石井雄一)
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