「今年から小学校の先生が家に来ない。楽だが寂しい」 家庭訪問に縮小の波
「息子の小学校で今年から家庭訪問がなくなりました。親としては楽ですが、寂しい気もします」。広島市中区の40代会社員女性からメールで情報が寄せられた。取材すると、広島県内の他の小学校でも本年度から希望制や校内での面談に変えたケースがあった。
▽共働きや教員負担配慮
女性の子どもが通うのは中区の幟町小。家庭訪問中止の理由を、藤川照彦校長は「午後の授業がなく、児童が昼で帰る日が5日間も続くと学校生活のリズムが崩れるため」と説明する。「共働き家庭の増加にも配慮した」とも付け加える。
他校にも尋ねると、家庭訪問のスタイルの多様化が見えてきた。来年度からの新学習指導要領を踏まえた授業時間の確保、教員の負担軽減を図る必要性が背景にあるようだ。改元に伴う10連休で1学期の日程がタイトな今年の特殊事情も、既存の行事を縮小する引き金となっている。
舟入小(中区)は本年度、教員が児童の自宅前まで行くが保護者と会わず、場所や通学路の安全を確認するにとどめた。例年は6日間かかる訪問が2日間で済み、授業時間の確保につながった。福山市の曙小は、本年度から保護者に来校してもらう形に改めた。
希望制にしたのは袋町小(中区)。共働き家庭への配慮に加え、教員の負担軽減も図った。午後2〜5時を条件に希望を募ったため、やむなく応じていた夜の訪問はほぼなくなった。
福田忠且校長は「抵抗感はあったが、教員の長時間労働が問題化した今しかないと決断した」と明かす。「英語の授業、道徳教科化に伴う児童一人一人の評価、いじめへの対応…。仕事が年々増える中で、何かを削らないと教員の健康を守れない。スーパーマンじゃないですから」
そもそも家庭訪問は何のためにあるのだろう。文部科学省によると、教員が子どもの家庭での様子を理解する手段の一つであり、義務ではないという。
親の受け止めはどうか。南区の保護者女性(40)は「仕事を抜けて帰っても、玄関先で立ち話を5分だけ。先生が何を知りたいのか分からず、自分も言いたいことを十分に言えずに終わる。形骸化している気がする」と冷ややかだ。
一方で「必要」との声も根強い。希望制にした袋町小では4月、全校児童241人のうち、52・7%に当たる127人の家庭が訪問を望んだ。保護者の40代女性は「初めての担任には子どもの性格を伝えておきたい。忙しい先生にわざわざ電話はしにくいので、家庭訪問は一対一で話せる良い機会」と歓迎する。
学校と保護者の問題に詳しい大阪大大学院の小野田正利教授(教育制度学)は「続けるに越したことはない」との立場だ。「親と先生の最初の出会いが子どものトラブルの後だと、感情が先走ってしまう。先生が相手の懐に飛び込み、現場でしか分からない児童の生活環境を知ることは、虐待などの可能性を察知することにもつながる」と説く。
「当たり前」ではなくなりつつある家庭訪問。今後、ほかの学校でも教員、保護者ともに多忙な現実を踏まえ、縮小に向かうのか。それとも、やり方を工夫してでも続けるのか。それぞれの学校や保護者がいま一度、その意義を考え直してみる機会にしたい。(馬場洋太、久保友美恵)
あなたにおすすめの記事
こちら編集局です あなたの声からの最新記事
-
【こちら編集局です】広島県と広島市、公共施設の休・開館の判断は 運営の協議・調整なく (1/18)
▽休館→広島市、コロナ対策で独自基準/開館→県、市民生活への影響最小限に 新型コロナウイルス感染防止対策で、広島市内の図書館など市民に身近な公共施設の運営に関して広島県と市の対応が分かれている。市が...
-
【こちら編集局です】広島県、コロナ集中対策再延長 感染防止強化に理解 時短効果疑問視も (1/14)
広島県が14日、新型コロナウイルスの集中対策期間を2月7日まで再延長する方針を決めた。広島市で国の緊急事態宣言の対象地域に準じた対策を講じ、飲食店への営業時間短縮の要請エリア拡大など、従来より強化す...
-
【こちら編集局です】「安倍氏説明を」多数 政治へ不信感や怒り (12/22)
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填(ほてん)問題で、安倍氏が東京地検特捜部から任意で事情聴取を受けた。編集局は22日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者...
-
【こちら編集局です】Go To停止「遅すぎ」 政府の対応、批判が大半 (12/15)
「中止は当たり前」「判断が遅すぎる」―。菅義偉首相が14日夜、表明した観光支援事業「Go To トラベル」の全国一時停止。表明後、編集局が無料通信アプリLINE(ライン)を通じて意見を募ると、約2時...
-
【こちら編集局です】「じわる」若者言葉、まじ「レベち」 SNS世代の新語、考察してみた (12/6)
▽スマホ入力→省略して即レス/他人に同調→あえて断定せず 若者の会話やネットの投稿で、不可思議な言葉に出合うことはありませんか。周囲の親世代からも「あれってどういう意味?」との声が聞こえてくる。調べ...
「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。
LINE公式アカウント
メール
「こちら編集局です」ご意見・情報提供はこちら
郵送
広島市中区土橋町7-1
中国新聞社
「こちら編集局です」係
ファクス
「こちら編集局です」係
082-236-2321