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「今年から小学校の先生が家に来ない。楽だが寂しい」 家庭訪問に縮小の波

2019/5/20 23:11

 「息子の小学校で今年から家庭訪問がなくなりました。親としては楽ですが、寂しい気もします」。広島市中区の40代会社員女性からメールで情報が寄せられた。取材すると、広島県内の他の小学校でも本年度から希望制や校内での面談に変えたケースがあった。

 ▽共働きや教員負担配慮

 女性の子どもが通うのは中区の幟町小。家庭訪問中止の理由を、藤川照彦校長は「午後の授業がなく、児童が昼で帰る日が5日間も続くと学校生活のリズムが崩れるため」と説明する。「共働き家庭の増加にも配慮した」とも付け加える。

 他校にも尋ねると、家庭訪問のスタイルの多様化が見えてきた。来年度からの新学習指導要領を踏まえた授業時間の確保、教員の負担軽減を図る必要性が背景にあるようだ。改元に伴う10連休で1学期の日程がタイトな今年の特殊事情も、既存の行事を縮小する引き金となっている。

 舟入小(中区)は本年度、教員が児童の自宅前まで行くが保護者と会わず、場所や通学路の安全を確認するにとどめた。例年は6日間かかる訪問が2日間で済み、授業時間の確保につながった。福山市の曙小は、本年度から保護者に来校してもらう形に改めた。

 希望制にしたのは袋町小(中区)。共働き家庭への配慮に加え、教員の負担軽減も図った。午後2〜5時を条件に希望を募ったため、やむなく応じていた夜の訪問はほぼなくなった。

 福田忠且校長は「抵抗感はあったが、教員の長時間労働が問題化した今しかないと決断した」と明かす。「英語の授業、道徳教科化に伴う児童一人一人の評価、いじめへの対応…。仕事が年々増える中で、何かを削らないと教員の健康を守れない。スーパーマンじゃないですから」

 そもそも家庭訪問は何のためにあるのだろう。文部科学省によると、教員が子どもの家庭での様子を理解する手段の一つであり、義務ではないという。

 親の受け止めはどうか。南区の保護者女性(40)は「仕事を抜けて帰っても、玄関先で立ち話を5分だけ。先生が何を知りたいのか分からず、自分も言いたいことを十分に言えずに終わる。形骸化している気がする」と冷ややかだ。

 一方で「必要」との声も根強い。希望制にした袋町小では4月、全校児童241人のうち、52・7%に当たる127人の家庭が訪問を望んだ。保護者の40代女性は「初めての担任には子どもの性格を伝えておきたい。忙しい先生にわざわざ電話はしにくいので、家庭訪問は一対一で話せる良い機会」と歓迎する。

 学校と保護者の問題に詳しい大阪大大学院の小野田正利教授(教育制度学)は「続けるに越したことはない」との立場だ。「親と先生の最初の出会いが子どものトラブルの後だと、感情が先走ってしまう。先生が相手の懐に飛び込み、現場でしか分からない児童の生活環境を知ることは、虐待などの可能性を察知することにもつながる」と説く。

 「当たり前」ではなくなりつつある家庭訪問。今後、ほかの学校でも教員、保護者ともに多忙な現実を踏まえ、縮小に向かうのか。それとも、やり方を工夫してでも続けるのか。それぞれの学校や保護者がいま一度、その意義を考え直してみる機会にしたい。(馬場洋太、久保友美恵)

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