西国街道の道幅は 「街歩きマップや説明板には2間半(約4・5メートル)」
「西国街道の道幅は5メートルぐらいあったのではないか」。広島市安佐南区の田積真一さん(70)から、無料通信アプリLINE(ライン)で編集局に疑問が寄せられた。4月24日付の中国新聞記事に、江戸時代の広島城下を東西に貫いた西国街道の道幅を「約4・5メートル」と書いた。広島市が発行する街歩きマップや、街頭の説明板は「2間半(約4・5メートル)」と記す。実際はどうだったのか。街道を歩いた。
▽5・4メートルや1・9メートルも 人通りに応じまちまち
記事は、南区の駅前大橋北詰めに西国街道の案内板ができたと紹介した。街歩きマップや説明板の記述などを基に、「幅員は約4・5メートルあった」と書いた。
まず西国街道が「2間半」だったという記述は、広島藩2代藩主の浅野光晟(みつあきら)の時代を記録した「玄徳公済美録(げんとくこうせいびろく)」にある。1633(寛永10)年、幕府の使者による視察を控え、藩は道路網を急ピッチで整備。その際、道幅を定めたという。
幕府の基準で「1間は6尺」。1尺(10寸)は約30・3センチなので2間半は確かに約4・5メートルとなる。ただ、長さの基準が全国で統一されたのは明治時代になってから。広島城(中区)の前野やよい主任学芸員は「藩は独自の基準で街道を整備した可能性がある」と指摘する。
18世紀初頭の「広島藩御覚書帖(おぼえがきちょう)」には「1間は6尺5寸」との記述がある。この基準で計算すると、2間半は約4・9メートル。声を寄せた田積さんは、こうした知識を基に疑問を持った。
実際はどうだったのか。30年以上、西国街道を調査する佐伯区の郷土史家佐々木卓也さん(64)と、当時の街道の痕跡をメジャーを持って巡った。
まず訪ねたのは廿日市市天神。大名や役人が休憩した本陣跡周辺で、佐々木さんは「街道を唯一、発掘調査した場所」と説く。付近の市道は江戸時代の幅員をほぼ残し、発掘で街道の両脇にある建物の基礎の間隔が5・4メートルと判明した。幕府、広島藩のどちらの基準の2間半よりもやや広い。
続いて西区井口2丁目の龍神山の山道に向かう。西国街道の難所の一つで古い石段や石垣が残る。石段の幅を計測すると1・9メートル。今度は大幅に狭かった。
西区草津東3丁目の慈光寺前の市道は4・5メートル。海田町上市の古い町並みを残す県道は5メートル以上…。後世に拡幅された街道は多いので、往時の名残をとどめる場所を探して計測すると、道幅は実に多様だった。
文献をたどると、一律に「2間半」だったわけでもないと気付く。寛永10年の広島城下の地図「寛永町切絵図(まちきりえず)」は、当時の西国街道に当たる本通り商店街(中区)の商業ビル「サンモール」前の幅を「3間半」とする。ちなみに戦前の本通りの幅は7・2メートル。戦後復興で11メートルに広げられた。
佐々木さんは「西国街道の道幅は、さまざまな場所を発掘しないと分からない。幕府と広島藩のどちらの基準を用いていたかも不明だ」と言う。「江戸時代はもっと考え方がアバウトで、一律の幅ではなく、人通りの多い道は広く、少ない道は狭くしていたのではないか」と思いを巡らす。
浅野氏の広島入城400年の節目に、市は本年度、旧街道のマップ「ひろしま八区ぐるっと散策『みち』めぐり」の増刷を計画する。少なくとも西国街道の道幅を説明する際は「2間半(約4・5メートル)」と断定せずに、幅を持たせて丁寧に解説してはどうだろう。(永山啓一)
<クリック>西国街道 京都と太宰府を結ぶ山陽道のうち、江戸時代の広島藩内での呼び名。1633年ごろ宿駅や一里塚、街道松などの整備が進み、参勤交代や多くの交易に利用された。広島城下では現在のJR広島駅周辺と紙屋町・八丁堀地区を結び、当時最も活気があった。
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