バスのラジオ、復活は 「カープ流して」「自由な時間を」
「十数年前まで、広島市近郊の路線バスで流れていたラジオ放送。なくなって久しいが、またバスで野球中継を聞きたい」。広島市安佐南区の会社員男性(45)から、無料通信アプリLINE(ライン)で声が寄せられた。会社帰りのバスで乗客が皆、下を向いてスマホに見入っている光景にふと、昔の記憶がよみがえったという。
高校時代にバス通学していたこの男性。「車内での野球中継が下校時の楽しみだった。カープのチャンスに『ピンポン、次は〇〇です』と放送が割り込み、もどかしかった」と懐かしむ。
広島電鉄(中区)によると、ラジオ付きバスの導入は1954年。乗車時間の長い郊外路線でのサービスの一環だったが、「うるさい」との苦情を受け、やめたという。中国ジェイアールバス(南区)は、ラジオ付きバスが造られなくなったことも一因、とする。
放送をやめた時期は、芸陽バス(東広島市)が93年か94年、広電は2001年ごろ、広島交通(西区)が10年以上前。携帯音楽プレーヤーや携帯電話など、個人向けツールが普及した時期とおおむね重なる。
大手メーカーによると、路線バス車両にオプションでラジオを付ける会社は、全国的に今も昔も珍しいという。例外が、北海道の「沿岸バス」。強風や高波、通行止めの情報をいち早く得るため、今も全路線で流す。斉藤寛営業主任は「通院の高齢者たちの車内娯楽でもあり、特に野球や相撲中継の人気が高い。やめたら、逆に苦情が来ますよ」。
広島でもニーズがあるのでは―。「こちら編集局です」のLINE登録者にラジオ復活の是非を聞くと、回答者234人のうち132人(56・4%)が「復活してよい」を選択した。
廿日市市のパート鎌田英理子さん(46)は、学校帰りのバスで聞いた91年の大相撲夏場所が忘れられない。貴花田が千代の富士から金星を挙げた伝説の一番。「勝負がついた瞬間、車内で見知らぬ人同士が顔を見合わせてにっこりし、拍手が起こった」と振り返る。
「名物番組のクイズコーナーで珍回答が出て、どっと笑いが起きた」(佐伯区のピアノ教師女性・61歳)。「カープ中継ではヒット、アウトのたびに歓声やため息が漏れた」(西区の会社員男性・63歳)。当時を知る人からはリアルな思い出が続々と寄せられた。
意外だったのは10〜30代の反応。こちらも半数以上が「復活」を選んだ。広島市内の14歳女子は「スマホをいじる人が減りそう」。府中町の主婦(35)は「静かな車内で子どもがしゃべると申し訳なくなる。ラジオがあれば少しは紛れる」。スマホ世代は「個」を重視すると思いきや、緊張感の漂う車内に居心地の悪さを感じる人もいるようだ。
LINEでの調査では「いらない」も89人(38・0%)に上った。「人の好みは多様化している」「自由な時間を楽しみたい」などが理由。聴覚過敏の人もいる。迷惑がる人への配慮はもちろん必要だ。
一方で、公共空間だからこそ出会いも生まれる。つながることが苦手な時代。見知らぬ人同士が温かな時間を共有することへの憧れがあるのかもしれない。
市内を走るバスの一部には、今もラジオが付いている。例えば一部の便で、試験的にカープ中継を放送してみてはどうか。地方都市が画一化されていく中で、街の個性にもなり得る。(馬場洋太)
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