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「資源ごみを無断で持ち去るトラックよく見る」 横取りなぜ見過ごし

2019/6/18 23:49
広島市内の路上で、トラックの荷台に新聞紙を積み込む男性=画像の一部を修整しています(5月27日午前7時59分)

広島市内の路上で、トラックの荷台に新聞紙を積み込む男性=画像の一部を修整しています(5月27日午前7時59分)

 「広島市内で資源ごみのごみ置き場から新聞などを無断で持ち去るトラックをよく見掛けますが、市が取り締まる様子はありません。市は横取りされてもよいと思っているのでしょうか」。同市安佐南区の40代のパート女性から無料通信アプリLINE(ライン)で疑問の声が編集局に届いた。資源ごみの持ち去りが後を絶たないのはなぜか。法的に問題はないのだろうか。実態を調べてみた。

 5日午前6時半、広島市南区の住宅地。荷台をベニヤ板などで囲んだ軽トラックから男性が降り、道路脇にあった新聞の束を荷台に入れていた。マンションのそばにあるごみステーションからも新聞や雑誌を回収するなど一帯を2巡、3巡。荷台をいっぱいにして同区内のリサイクル業者の集積場に持ち込んだ。

 集積場から出てきたこの男性に声を掛けてみた。最初は警戒されたが、意図を説明すると取材に応じた。

 男性は60代で、20代前半の時にこの仕事を始めた。10年以上たった後、古紙の価格が下がったため、いったんは辞めて、タクシー運転手などのアルバイトを転々。50代半ばだった2008年のリーマン・ショックのころ、定職を探したが雇ってもらえず、再びこの仕事に就いたという。

 市の資源ごみの回収日に合わせて週3、4回、南区や中区などの住宅地を午前中に回る。回収するのは、市の回収業者が来る直前の時間帯。「自慢できる仕事じゃないけど、わしにも生活があるんよ。誰にも縛られないし、拘束時間も午前中だけ。稼ぎもいいから、やめんよ」と話した。

 ▽要綱で防止「効果出ている」 売却の構図断つ規制を

 資源ごみの回収日のたび、ごみ置き場から持ち去られる新聞や雑誌は、どのように取引されるのか―。記者が広島市南区で持ち去りを目撃した男性は、区内のリサイクル業者に持ち込んでいた。この業者は取材に応じなかったが、別のリサイクル業者の関係者が仕組みを教えてくれた。買い取り額は資源ごみの種類によって業者側が決める。買い取った後は製紙会社などに転売するという。

 ▽収入は月20万円

 南区で持ち去りをしていた男性によると、この時期の買い取り額は新聞紙が1キロ当たり14円、雑誌は同8円。取材した5日の売却収入は約1万3千円だった。「通常、1日1トン前後を集め、月約20万円の収入がある」と明かす。

 市によると、持ち去りが目立ち始めたのは、中国への輸出で古紙やアルミ缶の価格が高騰した2002年ごろ。古紙再生促進センター(東京)によると、18年は中国向けの新聞紙の輸出が前年の3・5倍の約50万トンに増えた。米中貿易摩擦の影響で中国の古紙の主な輸入先が米国から日本に変わったためという。男性は「昨年の夏ごろは新聞紙は1キロ当たり22円。ここ10年で最も高かった」と話す。

 広島市では、住宅から出た資源ごみは市の収入となるほか、町内会が月に数回、集団回収し、リサイクル業者などに売って活動費などに充てている。17年度に市に入った資源ごみの売却収入は約1億600万円。持ち去られた量や被害額は不明だが、売却収入はピークだった07年度の約3億7600万円の3割弱となっている。

 市によると、資源ごみはごみステーションなどに捨てられても看板などを掲げて所有者を明示した場合、勝手に持ち去ると窃盗罪に問われる可能性がある。だが、被害金の特定など立件のためのハードルは高く、持ち去り行為を条例で禁じる自治体が増えている。全国の市区町村では17年度時点で条例を設けているのは全体の22・7%に当たる395市区町村で、うち108市区町村は罰則付きだ。

 広島県内の23市町では、呉市など約半数の11市町が施行済みで、うち福山市と廿日市市、府中町、熊野町は罰金などの罰則規定も設けている。4月には府中町で資源ごみを持ち去った男性が町廃棄物処理条例違反の疑いで県警に逮捕された。送検後に釈放され、検察庁の処分待ちの状態だ。

 一方で、広島市は条例を設けていない。持ち去りをしないよう指導するための要綱を06年度に作り、苦情などがあれば職員が出向いて指導しているという。

 18年度の苦情や通報は27件。要綱を作る前の05年度の3分の1程度に減ってはいる。市は「要綱の効果が出ている」とし、条例を作る予定はないとしている。

 ▽市民にも悪影響

 資源ごみの持ち去りについて、大阪経済大の木村俊郎教授(民事法学)は「自治体や町内会による売却益を奪うだけでなく、市民のリサイクル意識にも悪影響を及ぼす」と問題視する。ただ、持ち去りを禁じる現行の条例は「法執行の手続きの煩わしさや監視強化の必要性から実効性に疑問がある」とし、「資源ごみを買い取るリサイクル業者に対し、無断の持ち去り業者からの買い取りを拒否させる規制を自治体が設けるなどして、無断の持ち去り者による売却システムを断つべきだ」と指摘している。(松本輝、山下美波)

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