ごみが呼ぶアナグマ 南区の黄金山周辺で目立つポイ捨て
今月9日、広島市南区の黄金山周辺で71歳の男性がアナグマとみられる動物に左手をかまれてけがをした。「ポイ捨てされたごみが引き寄せたのでは」―。こんな声を編集局に寄せたのは、地元の新黄金山町内会長の藤田裕一さん(72)だ。近年、ごみが目立ち始め頭を抱えていたところ、「事件」は起きた。ごみとの因果関係はあるのだろうか。
▽頑丈タイプで徹底管理を
藤田さんと一緒に、現場周辺の山道を巡った。道路脇の斜面にはむき出しの弁当殻やスナック菓子の袋などが散乱している。訪れた人が捨てて帰るようだ。
この地域で、住民が初めてアナグマらしき足跡を見つけたのは5月のこと。それ以後、民家の前に置かれたごみ箱やごみステーションが荒らされる被害が続出しているという。「とうとうけが人が出てしまった」と藤田さんは残念がる。
本来、アナグマは山林に生息している。ところが近年は市街地でも目撃されるようになった。5年前には中区の本通り商店街に出没し、「珍客」に驚く市民の様子を本紙でも伝えている。
さらに今回の現場となった南区は、海沿いに近いエリアだ。区地域起こし推進課も「区内でアナグマらしき動物の目撃情報が寄せられたのは、今年が初めて」と話す。どうやら徐々に行動範囲を広げているようだ。やはり、街中のごみが原因なのだろうか。
取材を進めていると、ヒントになるような情報が無料通信アプリLINE(ライン)で届いた。南区の比治山周辺に住む事務職女性(48)から。6月下旬、自宅そばでアナグマとみられる動物と窓越しに遭遇した。体長約60センチで、目の周りが黒く眉間は白色。裏口に置いていた野良猫用の餌を食べていたという。
市安佐動物公園(安佐北区)獣医師の野々上範之さん(37)は「アナグマは雑食動物。ポイ捨てごみや猫の餌など、街に食べられるものがあればそこを新しいすみかにしてしまうのだろう」とみる。夜行性で、側溝などを伝って人知れず市街地を移動していてもおかしくないという。「一度味を覚えれば習性ですみ着くようになる」そうだ。
さらにアナグマの特徴を知ると事態の深刻さに気づく。島根県立三瓶自然館サヒメル(大田市)学芸員の安藤誠也さん(36)は「アナグマは土の中で活動するため鼻が良い。ごみ袋を二重にしたくらいでは対策にはならない」と説明。ごみステーションはスチール製でふた付きの頑丈なタイプのものを薦める。
一方で視力は悪く「近寄るまで人間の存在に気づかないことが多い。餌をやったり触ったりすると驚いてかむことがある」と、安藤さんは注意を促す。顎の力が強く、かまれると大けがにつながりかねない。
民家近くにクマやサルが現れたり、市街地でイノシシが暴れたり。人と獣の境界線が崩れていると感じさせる事案は近年、多発している。アナグマの出没もその一例といえる。被害や危険を増やさないためには、「もうここにおいしいものはない」とアナグマに分かってもらわなければ。徹底したごみの管理こそ「共生」への一助になる。(山下美波)
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