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室町以降の絵画史を追体験 「広島浅野家の至宝」展に寄せて 隅川明宏

2019/10/4
「国宝 因陀羅『寒山拾得図』」<中国・元時代(14世紀)、東京国立博物館蔵>

「国宝 因陀羅『寒山拾得図』」<中国・元時代(14世紀)、東京国立博物館蔵>

 広島県立美術館(広島市中区)で開催中の「広島浅野家の至宝」展では、旧広島藩主浅野家に伝来した絵画や刀剣、器物などを紹介している。なかでも江戸時代の大名家が収集した絵画がどのようなものであったかを明らかにする、明快かつ重厚な内容が極めて貴重な展覧会だ。

 江戸時代の大名家を総称して三百諸侯という。各家には、それぞれに大名たるべき由緒があり、家の個性を映し出す伝来の什宝(じゅうほう)があった。浅野家といえば、豊臣秀吉の側近として大名となり、近江、若狭、甲府、和歌山を転じて、元和5(1619)年に広島へやってきた。大名家の由緒を示すという点では、甲冑(かっちゅう)や武具・刀剣に及ぶものはなく、本展でも4代将軍徳川家綱から拝領した「太刀 銘 真守造(さねもりぞう)」(国重要文化財)など、浅野家の歴史上に重要な意味合いを持った作品が並んでいる。

 ▽研究上も重要

 しかしながら、浅野家伝来の什宝のうち最も特色あるのは、日本国内で蓄積されてきた中国絵画コレクション、それを古典とした室町時代の絵画コレクションであり、今回の展覧会でもハイライトとなっている。

 展覧会では、室町時代以来の絵画鑑賞の歴史を通覧するような幅広さ、そして今日の美術史研究上にも重要な位置を占める作品の豊富さを特筆したい。中国元末の画僧因陀羅(いんだら)「寒山拾得(じっとく)図」(国宝)、南宋時代の宮廷で活躍した画家馬遠(ばえん)の「寒江独釣(かんこうどくちょう)図」(国重要文化財)、夏珪(かけい)の「山水図」などを代表とする中国絵画が並び、さらに日本画の周文「虎渓(こけい)三笑図」、雪舟「金山寺・育王(いおう)山図」などが続く。

 ▽狩野派が鑑定

 こうした作品の鑑定を担ったのが江戸幕府の御用をつとめた狩野派絵師であり、彼らの絵画作品までを含めて「唐絵」「漢画」とも呼ばれる。これらの作品を通覧すれば、日本人がどのような絵画を受け入れ、いかに展開してきたのか、その歴史を追体験することにもなる。このように教科書風な展示を大名家伝来のコレクションのみで行うことができるのは極めて異例で、その絵画コレクションを広島の大名浅野家の精華と称すべきゆえんである。

 近代以降、日本美術の分野で浅野家といえば、中国の宋元時代や室町時代の絵画作品の充実したコレクションで知られる。その名声を広める役割を果たしたものの一つに大正2(1913)年開設の「観古館」があった。「観古館」では、浅野家で当時所蔵の絵画・刀剣・器物が公開され、その筆頭にあげられたのが絵画コレクションである。旧藩主浅野家が誇りとした絵画コレクションは、当時の広島県民にとっても誇り高いものであったはずだ。

 「観古館」同様、この展覧会の記憶もやがて夢まぼろしのようにはかなくなるが、広島で育まれた歴史・文化を誇りとし、次代につないでゆく方々がますます増えてくださることを願っている。(広島県立美術館学芸員)

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 「広島浅野家の至宝」展は中国新聞社などの主催で10月20日まで。7、15日は休館。

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  • 「国重要文化財 馬遠『寒江独釣図』」<中国・南宋〜元時代(13〜14世紀)、東京国立博物館蔵>

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