【こちら編集局です】住んでなくても「住民税」? 家屋敷税が徴収されない「法律違反では」
「町外に住んでいる人でも、町内に家や事務所があればその町に住民税を納めなければいけないらしい。本当ですか」。島根県邑南町の70代男性からこんな声が届いた。調べてみると、「家屋敷課税」と呼ばれる税で、地方税法に基づき同町の条例でも規定している。しかし邑南町は徴収しておらず、男性は「法律違反では」と疑問を抱く。さらに県内市町村で徴収しているのはゼロ。なぜそんなことに。
きっかけは、町から男性に届いた納税通知書。町民税と県民税の課税対象者の記載に、「町内に家屋敷を有する個人で町内に住所を有しない者」とあったからだ。男性本人は課税対象ではないが、調べてみると、同町はこれまで家屋敷課税をしてこなかったという。
家屋敷課税は、住所地以外の自治体に家や事務所などを持つ人が、その建物がある自治体に納税する制度だ。例えば、親が亡くなって空き家となった実家や別荘などが想定される。地方税法に定められ、道路の整備や除雪、火災時の対応など行政サービスの負担分をもらう趣旨の税だ。
邑南町の場合、本来なら町民税3500円と県民税2千円が課税されるが、いずれもしていない。理由として町財務課の白須寿課長は「対象者の把握が難しく税負担の公平性を担保できない」と説明する。町は最大で約1200人が対象とみるが、固定資産税と異なり、建物があっても老朽化して住めない状態だったり、他人に貸す目的だったりすれば課税対象外になるからだ。物件を1軒ずつ調べるのは難しく、自己申告に基づくのが実態という。
県民税も課税漏れということになるが、県税務課は「賦課徴収の権限は市町村にある」としている。
現在、島根県内で課税している自治体はない。市町の担当者は「把握にかかる労力に見合う税収が得られない」「実態調査まで手が回らない」などを理由に挙げた。総務省の統計によると、全国の市町村で2018年度に家屋敷税の徴収実績のある自治体は35%。中国地方5県では割合の多い順に、山口11市町(57%)▽広島7市町(30%)▽鳥取4町(21%)▽岡山5市町村(18%)―となっている。
課税している自治体の一つ、山口県周防大島町では、昨年度の家屋敷課税の納税義務者は435人(計152万円)だった。町税務課によると、十数年前に洗い出した対象物件の情報を基に、町外の対象者に毎年アンケートを送っている。老朽化で住めなくなったり売却したりしていないかなど変化を尋ね、変更があれば職員が現地を訪れて確かめる。同課は「ある程度対象者を漏れなくカバーできている」とする。
広島修道大の奥谷健教授(税法)は「条例の規定なしに課税免除されているならば公平性に問題がある。全国的な実態の把握が必要ではないか」と指摘する。
現時点で邑南町財務課は「町税条例と照らし合わせ、今後どうするかを検討中」とする。とはいえ、条例で定めているにもかかわらず、取りにくいから取らないのでは、納税者は納得できないだろう。地域の実情に沿った対応ができるよう、家屋敷課税の制度自体の見直しを検討する時期ではないだろうか。(鈴木大介)
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