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【武家茶道 新たな時代へ】上田宗箇流若宗匠の1年<2>来し方行く末

2019/12/7
スカーフでこしらえた帛紗に黒い茶碗を載せ、色の具合を確かめる若宗匠。多くの人に茶を楽しんでもらおうと試行錯誤する

スカーフでこしらえた帛紗に黒い茶碗を載せ、色の具合を確かめる若宗匠。多くの人に茶を楽しんでもらおうと試行錯誤する

 ▽回り道にも無駄はない

 11月下旬の夕暮れ時。茶道上田宗箇流の茶寮、上田流和風堂(広島市西区)で男女10人の茶会があった。

 「一礼は膳を置いてからにしてください」「椀(わん)のふたを取るのは、全員に膳がゆき渡ってからです」

 茶室「安閑亭」で、上田宗篁(そうこう)若宗匠(41)は語り掛けた。食事や茶席での作法、もてなしの心得を説きつつ、豊かな時間を過ごせるよう心を砕く。

 広島青年会議所(JC)の茶道同好会「直心(じきしん)会」の月例会。宗冏(そうけい)家元(74)がJC会員だった頃にでき、ことしで40年になる。つい最近まで会員だった若宗匠にとっても大切な集まりだ。「卒業」してからも世話役を務める。若い会員のぎこちない所作を眺め、自身の来し方を思い起こす。

 本格的に茶道に向き合うまで回り道をした。茶の世界に足を踏み入れてからも試練があった。

 10年余りダンスに打ち込んだ。高校時代に覚え、大学時代にのめり込んだ。卒業後も東京に残り、ステップアップを目指す。電気やガスが止まっても広島に帰ろうとは思わなかった。

 「宗家に生まれ、周りの人は家を継いで当然とみていた。家元の子であることが何の意味も持たない世界で、自分の力でどこまでやれるか知りたかった。だからダンスに懸けた」

 幾つものステージをこなし、プロのヒップホップダンサーとしてそこそこの収入も得られるようになった。「やり切ったかな」。26歳のある日、そんな感じを覚え、2年後に広島へ戻ると決めたのだ。

 家を継ぐには、作法、礼法はもちろん、道具や美術品、庭、建築、茶の歴史などの知識を身に付け、美的感覚も磨かなければいけない。さらに茶会や展示会の企画・運営も学ぶ必要がある。遅いスタートを取り戻すべく猛然と勉強に取り掛かり、経験も積んだ。「さあこれから」という時に、今度は大病に見舞われた。おととしのことである。

 仕事に戻れたのは1年後の昨年夏。今もつえは手放せず、正座も厳しい。「いろいろあったけど、無駄なことは一つもない。今はそう考えています」と若宗匠は穏やかに語る。

 掛け軸や道具のしつらい、料理の仕込み、室内や庭を清めるなど、一つの茶席のために入念に準備する。ダンスも10分のステージのため3カ月は準備期間が要る。ダンスに打ち込んだ経験は茶道にも生きている。

 病気もそう。生死の境をさまよい、「何事も楽しまなければ」と思うようになった。自分が楽しくなければ、他人に楽しんでもらうことはできない―。

 11月は「茶人の正月」といわれる。風炉(ふろ)を炉に切り替える「炉開き」、そして茶壺(ちゃつぼ)に詰めておいた新茶を取り出す「口切り」。身も心も引き締まる新たな季節がやって来た。

 ▽茶を身近に 多様な挑戦「調和、工夫のしどころ」

 「若宗匠の今だからできること、今じゃないとできないことがある」。茶道と接点がない人に、どうすれば茶に親しんでもらえるか―。若き茶人はさまざまな取り組みをしている。

 母や亡くなった祖母からもらったブランド品のスカーフを、茶器を取り扱う際に用いる帛紗(ふくさ)に仕立て直してみた。エッグスタンドを蓋置(ふたおき)代わりにし、ペルシャの陶器などを茶碗(ちゃわん)として使ったことも。「何に用いていた陶器か分からないけど、味わいがあると感じました」。茶道具でない物をお点前に使い、趣向を楽しむ「見立て」である。

 スカーフでこしらえた帛紗を実際に使ってみる。光沢を帯びた帛紗が、上に載せた黒い茶碗、抹茶の濃い緑を引き立てる。

 自身の発案で、持ち運びできる組み立て式の茶室も作った。6月にマリホ水族館(広島市西区)の大型水槽の前に設け、入場者に茶を味わってもらった。

 広島東洋カープとのコラボもあった。2017年のシーズン。カープが上田家に伝わる流祖宗箇の陣羽織をモチーフにした特別ユニホームを制作し、選手がマツダスタジアム(南区)での3試合に着用した。

 「陣羽織ユニホーム」で制作された生地を業者から譲り受け、着物に仕立ててもらった。袖の内側にカープの赤がのぞく。先の直心会の月例会でペルシャの陶器、スカーフで作った帛紗とともに披露。出席者の誰もが違和感なく受け入れた。

 若宗匠は「奇をてらうと茶道から離れてしまう。お茶とどう調和させるか、工夫のしどころ」と語った。

 文・林仁志編集委員、写真と動画・高橋洋史、宮原滋。

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  • 直心会の会員(手前の2人)に茶席の作法についてアドバイス。もてなしの心得も伝える
  • 収集した道具の数々。エッグスタンドや果物皿など茶器ではないものもある
  • マリホ水族館の大型水槽前に設けた茶室。簡単に持ち運びできるよう組み立て式になっている(6月)
  • 上田宗箇の陣羽織をモチーフにしたユニホームを披露するカープの安部友裕内野手(中)と野村祐輔投手(右)。マツダスタジアムでの3試合で着用した(2017年7月)

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