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改正入管難民法、成立1年余 移民化警戒、家族帯同認めぬ政府

2019/12/17 9:33
「会いたいね」。スマホに保存した息子の写真を見つめるグエンさん

「会いたいね」。スマホに保存した息子の写真を見つめるグエンさん

[出稼ぎは身一つで] 「都合良く追い返す」懸念

 人手不足の工場などで働く外国人は20、30代の若者が多い。晩婚・少子化の日本と比べ、人口が増加する東南アジアでは多くが結婚、子育てをしている世代に当たる。一方、技能実習制度は家族帯同を認めず、約1年前に成立した改正入管難民法の新たな在留資格「特定技能」も基本は身一つでの来日だ。その政策方針は外国人労働者には移民につながる定住ではなく、期間限定でお帰り願いたいとの政府の本音が透けて見える。

 「会えないのが一番つらいね」。ベトナム人技能実習生グエンさん(35)は山口県東部の縫製工場の寮でスマートフォンの画像を見つめる。すやすやと寝入る顔や元気いっぱいの笑顔。5歳になる長男の成長の歩みが詰まるが、1歳の誕生日を待たず来日したため一緒に暮らしたのはわずかだ。

長男から「誰?」

 昨年に一時帰国した際、長男から「誰なの」と尋ねられた。ショックだった。それでも家族を養うため「出稼ぎ」を続け、月給約13万円のほぼ全額を仕送りする。「本当は子どもと暮らしたいよ」と訴える。

 法務省によると、実習生の約9割は20、30代。伴侶や幼い子どもを母国に残し来日する若者は相当な数に上る。では、なぜ技能実習や特定技能では家族の来日を認めないのか。外国人労働者の先達である日系人の受け入れの?末(てんまつ)を見ると、政府がそこからなにがしかの「教訓」を得たのではないかと感じさせられる。

 バブル経済で人手不足だった1990年、政府は入管難民法を改正。日系2、3世へ就労に制限のない在留資格を与えた。これを機に改正前の84年に約2千人だったブラジル人は2005年には30万人を突破。だが、リーマン・ショックで企業はリストラに走り、各地の「ブラジル人街」は失業者であふれた。これに対し政府は当分再入国しないことを条件に失業者1人当たり30万円、家族にも同20万円を払って送り返した。

「妊娠・恋愛だめ」

 外国人労働者と家族の問題を巡ってはさらに深刻な人権侵害も起きている。

 「妊娠すれば実習中止」。呉市の食品加工会社に勤めていた元実習生の中国人女性の陳さん(23)=仮名=は来日前、現地の仲介団体に迫られた。「恋愛も禁止ね」と告げられた。

 実習制度は日本の労働関係法令が適用されるため、結婚や出産を理由にした解雇は違法だ。だが立場の弱い実習生の間では「妊娠すれば中絶か、さもなくば企業に強制帰国させられる」との認識が広がる。陳さんの知り合いの実習生は中絶薬を非合法に入手して堕胎した。近く帰国する陳さんは「ひどい。もう二度と日本には来ない」と憤る。

 特定技能制度では1号の資格で5年勤めた後、2号に移行すれば家族帯同や事実上永住もできる。だが、対象業種は建設と造船・舶用工業だけの狭き門だ。そのため外国人の労働問題に詳しい指宿(いぶすき)昭一弁護士は「政府が保守層に配慮して永住外国人を増やさないよう今後も2号の枠を広げないのでは」と指摘。1号の身分だけで働かせて都合良く追い返すことを懸念し「労働者の使い捨てになりかねない」と批判する。

 実際、政府は「移民政策は取らない」と繰り返す。財界の要請で外国人の単純労働に門戸を開く一方、移民につながりかねない家族の入国については「社会的コストがかかり、幅広い国民的コンセンサスが必要だ」と否定的な立場だ。

 実習生から特定技能1号に移れば、家族と離れて暮らす期間は通算8年にも及ぶ。もちろんその先、日本に残れる保証はどこにもない。安価な労働力として長く働かせる仕組みは欲しいが、その労働を支える家族は「社会的コスト」の観点から切り捨てる。こんな国が外国人労働者にとって「フレンド」なのか。国際社会から問われている。(和多正憲、堀晋也)

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