【こちら編集局です】叡啓大の名称が難しい 「広島県立と分からない」「読みにくい書きにくい」
広島県が2021年4月の開学を目指す新たな大学、叡啓(えいけい)大。今秋決まったその名称に、「読みにくい」「書きにくい」との声が編集局に複数寄せられた。インターネット上には「広島県立と分からない」との指摘や、比叡山の「叡」の字が入るからか「仏教系の大学かと思った」との書き込みもある。なぜ「叡啓」?
▽育てたい人物像を表現
叡啓大の運営を担う公立大学法人県立広島大(広島市南区)の新大学設置準備室に尋ねた。名称に対する疑問の声は準備室に届いていないとした上で、「叡啓」は大学で育てたい人物像を言い表した2文字だと強調する。
新大学の名称を発表した今年10月の記者会見。中村健一理事長は、その名に込めた思いを解説した。「『叡』の訓読みは『かしこい』。『谷』と『目』が組み合わされた字で、物事を掘り下げて追求し見据えるとの意味がある。そうした力をもって『啓』、つまり新時代を切り開く人材を育てる」
名称は同法人の教職員約10人で構成する準備室が決めたという。4月に検討を開始。新大学のカリキュラムを協議した有識者会議のメンバーにも候補を募った。50余りの案の中に「叡」の字があった。案には含まれていなかったが、新大学の理念に沿った「啓」の字を組み合わせた。
「広島」とも「県立」とも付かない名称に異論はなかったのか。準備室の夏目啓一室長は「公立を明示した方が学生募集で有利かもしれないが、そこに甘えず学びの中身で勝負したい」と語る。
「叡」と言えば、今年4月に開校した県立広島叡智(えいち)学園(大崎上島町)が思い浮かぶ。世界的な大学入学資格「国際バカロレア」を得るための教育プログラムを取り入れた全寮制の中高一貫校だ。
夏目室長は「新大学にも同じ文字を冠することで、県民に一体感をイメージしてもらえるとも考えた」と明かす。県教委が公募して名称が決まった叡智学園。寄せられた205件の中にあった「叡」の字が採用された。これが「叡啓」の名の源流と言えそうだ。
「叡啓とは、とんがった名前。珍しい」と、進学情報サイトなどを運営する大学通信(東京)の安田賢治常務。近年改称した大学のネーミングの傾向は、地名や学ぶ内容が一目で分かるようにするのが主流だという。「目立つ一方、受験生に理念やカリキュラムは伝わりにくい」
少子化を背景に「大学全入時代」に入り、特に地方大学は学生集めに苦戦している。その中であえて新設する県立大は、「今までにない高等教育モデルを示す」(夏目室長)というように確かに意欲的だ。ソーシャルシステムデザイン学部の単科大、日英2言語での授業、1学年の4分の1は留学生、企業・団体と連携した社会の課題解決演習の導入…。「人づくり」に力を入れる湯崎英彦知事の思いが反映されている。
叡啓大のキャンパスは広島市の中心部、中区幟町にある私立の広島国際大広島キャンパスの土地、建物を取得して置く。県負担は34億円超。県議会には学びの独自性も相まって、評価の声とともに「なぜ今、県が大学を新設するのか」との疑問も根強い。そんなところも「エリート育成」との批判もある叡智学園と重なる。
公が提供する教育はどうあるべきか。従来の枠組みを変えたいとの県側の思惑も「叡啓」には帯びる。広島にこの大学を設ける意義は何か。公金を投じる以上、県には一層丁寧に県民に説明する責任があるだろう。(奥田美奈子)
<クリック>叡啓大 広島県と、県立広島大(広島市南区)を運営する公立大学法人が2021年4月の開学を目指すソーシャルシステムデザイン学部だけの単科大。1学年の定員は100人で、アドミッション・オフィス(AO)入試が改称された「総合型選抜」で半数を選ぶ。学校推薦と一般入試で30人を選び、残る20人は留学生と想定する。学長には東京大副学長の有信睦弘氏が就任予定。JR広島駅(南区)から徒歩約10分の広島国際大広島キャンパス(中区)の土地と建物を活用する。
あなたにおすすめの記事
こちら編集局です あなたの声からの最新記事
-
「電気代8万円、ぎゃー」 新電力料金、なぜ急騰【こちら編集局です】 (3/2)
「電気代が8万円になりました。ぎゃー」。編集局はインターネット上で悲痛な声を見つけた。使用量が大きく増えたわけでもないのに、料金が急騰したという。取材を進めると、声の主に電気を供給する新電力の電気の...
-
国道183号目立つわだち、なぜ 「ハンドル取られ事故につながりそう」【こちら編集局です】 (2/26)
広島市中心部を走る国道183号のアスファルト路面に、車両の通行に伴うわだちが目立っている。付近住民から「バイクがハンドルを取られ、事故につながりそう」との声が編集局に寄せられた。この一帯では、市中心...
-
森氏の女性蔑視発言「時代錯誤」「心底怒り」【こちら編集局です】 (2/5)
▽批判が大半、男性も問題視 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を受け、編集局は5日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者に受け止めを尋ねた。寄せられた約200件の...
-
【こちら編集局です】広島県と広島市、公共施設の休・開館の判断は 運営の協議・調整なく (1/18)
▽休館→広島市、コロナ対策で独自基準/開館→県、市民生活への影響最小限に 新型コロナウイルス感染防止対策で、広島市内の図書館など市民に身近な公共施設の運営に関して広島県と市の対応が分かれている。市が...
-
【こちら編集局です】広島県、コロナ集中対策再延長 感染防止強化に理解 時短効果疑問視も (1/14)
広島県が14日、新型コロナウイルスの集中対策期間を2月7日まで再延長する方針を決めた。広島市で国の緊急事態宣言の対象地域に準じた対策を講じ、飲食店への営業時間短縮の要請エリア拡大など、従来より強化す...
「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。
LINE公式アカウント
メール
「こちら編集局です」ご意見・情報提供はこちら
郵送
広島市中区土橋町7-1
中国新聞社
「こちら編集局です」係
ファクス
「こちら編集局です」係
082-236-2321