【こちら編集局です】3人別々の保育所。もう限界 個別事情の配慮、課題のまま
「3人の子どもを別々の保育所に預けている。もう限界です」。福山市のパート女性(29)から悲痛な声が編集局に寄せられた。働き始めるためには、3カ所の空いた枠にそれぞれ子どもを入れてもらうしかなかったという。広島県内の未就学児の2人に1人が保育を希望する時代。保育の質や利用者の満足度を、どうすれば担保していけるのだろう。
小学1年生、5歳、3歳、1歳の4人を育てている。朝は午前6時45分に家を出る。下の3人を車に乗せ、3カ所の保育所を回る。途中で渋滞に引っ掛かり、始業時間の9時に何とか職場に滑り込む。午後4時には仕事を切り上げ、迎えに走る―。そんな日々を2019年4月から続けている。
「本当は残業もしたい。家計が回らないから」。女性の月7万円前後の給料は家のローンに消える。子どもたちは病気がちで医療費もかさむ。だが3交代制勤務の夫に迎えを頼みづらい。遠方で暮らす親にも頼れない。働く時間が短いから保育所に入れてもらえる優先順位も上がらない。参観日、運動会、発表会…。下の2人の行事にはことごとく行けていない。「なんだか八方ふさがりな気がして」
新年度から、せめて2カ所になればと市に転園を申し込むつもりだ。ところが幼保無償化で新たに保育を希望する人が増えるとうわさで聞いた。「預けないと損だよね」という声も耳にした。さらに狭き門になってしまうのだろうか。
19年10月時点で福山市児童部庶務課が受け付けた入所申込数は、前年同期より185人増えた。「幼保無償化の影響が少なからずある」と同課はみる。市内できょうだい別々の保育所に通うケースは約200世帯あるとし、「問題意識としては持っている。個別の事情にできる限り配慮したいが、限界もある」と話す。
多くの課題を積み残したまま、国は幼保無償化に踏み切った―。取材を通じてそんな印象を強くした。まず、保育の現状を知る指標があまりに乏しい。待機児童数くらいしか思いつかない。自治体は「待機児童ゼロ」を目指して保育所を増やしているが、どこかに入れたらいいわけではない。
実際、待機児童数だけでは実態をつかみづらい。広島県内で保育所の利用を申し込みながら、結局は入所していない子どもは19年10月時点で2716人に上る。そのうち待機児童727人を引いた1989人は数値化されていない。「希望する保育所に入れず諦めた」「利用の要件を満たしていない」などさまざまな理由があるだろう。この人数は15年10月に比べ1・3倍に増えており、潜在したニーズは拡大する傾向にある。
保育士の待遇改善という課題もある。広島県安心保育推進課は、本年度の待機児童を解消するには約300人の保育士が不足していると推計。待遇面では県内の全産業と比べ、平均年収で100万円以上の開きがあるとする。保育の質や利用者の満足度を上げる鍵は保育士であることを忘れてはならない。
「数字ではなく、誰のための幼保無償化なのかを考えないといけない」と安田女子短大の柿岡玲子教授(乳幼児教育学)は強調する。「子どもを預ける親の安心感や子どもの満足度を検証する客観的な指標がこれからは必要になる。幼稚園では既に制度化されている外部評価も保育園に取り入れていくべきではないか」。待機児童解消の先を見据えた、複合的で細やかな取り組みが求められている。(石井雄一)
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