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【武家茶道 新たな時代へ】上田宗箇流若宗匠の1年<3>年越しの茶事

2020/1/11
元日の午前6時前に始まった新年の上田家の茶事。家元(左)がたてた濃茶を最初に若宗匠(中)が味わう

元日の午前6時前に始まった新年の上田家の茶事。家元(左)がたてた濃茶を最初に若宗匠(中)が味わう

 ▽火を守り、ことほぐ初春

 夜から朝へ。旧年から新年へ。火を宿したまま年を越した炭が、若水に生命を吹き込む。令和2年元日の午前6時前。武家茶道、上田宗箇(そうこ)流の宗家で初春を祝う茶事が始まった。

 茶寮上田流和風堂(広島市西区)の鎖の間に、宗冏(そうけい)家元(74)と宗篁(そうこう)若宗匠(41)、師範代2人、上田家にゆかりある客人の計5人が集った。

 鎖につるした釜から湯気が立ち上ると、ろうそくの明かりを頼りに家元のお点前に移った。「上田家の大切な行事。気が引き締まります」と若宗匠。碗(わん)に注いだ濃茶を順に回し飲み、新年をことほぐ。

 濃茶席が終わると、薄茶席へ。供されるのは梅干しと黒豆、さんしょうの入った大福茶(おおぶくちゃ)である。既に外は白み、障子越しに初日が差し込んできた。

 茶事の準備に取り掛かるのは、大みそかの昼すぎである。茶器を整え、畳を拭き清めるなど、若宗匠も忙しく立ち働く。深夜、未明も気は抜けない。火を守るという重要な役を担っているからだ。

 午後11時すぎ、静まり返った鎖の間に若宗匠が入った。炉にかけた釜をいったん取り外し、夕方付けた炭火の具合を確かめる。一部は取り除き、必要と思われる炭だけを残す。そして灰をかぶせてうずみ火に。「家を絶やさないようにという意味があるんですよ」。赤々とした色を発する炭火に、宗家のいやさかを願うのだ。

 午前4時ごろには、また動きだす。まずは炭の状態をチェックする。次いで和風堂の井戸に向かい、つるべで若水をくみ上げる。水を移し替えた手おけを両手に提げ、何度か井戸と鎖の間を往復する。

 いつごろ始まったのかは定かではない年越しの茶事だが、毎年ほぼ同じ手順で繰り返されてきたという。「不易」という言葉を思い浮かべる。先人の心と時の重さを思い、居住まいを正す。

 和風堂の敷地に小さな丘があり、頂にほこらが立っている。流祖宗箇が知行していた浅原(廿日市市)と小方(大竹市)から1文字ずつ取って名付けた「浅方社」である。かつては別の場所にあったという。

 茶事が済むと神社に詣でてお茶を供える。次いでおせち料理を味わい、一連の儀式は終わりになる。

 「好天に恵まれ、とっても良い年明けになりました」と、若宗匠は一息ついて表情を和ませた。朝日が白い玉砂利に照り映える。庭のサザンカは花びらを散らし、ツバキのつぼみは膨らんできた。和風堂のそこここに春の気配が漂っている。

 ▽無病息災を願う初釜

 茶道家元の一年の対外的な行事は初釜に始まる。上田宗箇流もしかり。特別な催しがある節目の年はともかく、「年明け最初というだけでなく、年間通して最も大規模な行事」(宗篁若宗匠)という。

 ことしの初釜は11日に始まった。上田流和風堂の広間「敬慎斎(けいしんさい)」で14日まで4日間にわたって続け、日ごとに五つの茶席を設ける。政財官界や学術、体育関係の招待客、上田家にゆかりの深い人たちや地元の人たち、門弟たちと、出席者は総勢600人くらいになる。

 第16代の宗冏家元がお点前を披露。出席者は一つの碗を数人で回す濃茶を味わう。花生けに飾ってあるのは、ヤナギの枝をたわめて輪にした結び柳とツバキである。濃茶を味わった後は別の茶室で大福茶を堪能してもらい、一年の無病息災を祈る。

 若宗匠の担当は祝い膳でのもてなし役だ。客人一人一人の席を回り、朱色の杯に酒をつぐ。新年のあいさつを述べ合うとともに、当日のしつらいや近況など幅広い話題で会話は弾む。

 ひと月もすれば梅がほころび始める。昨年に続き、3月下旬には和風堂の特別公開も控える。2019年に始まった浅野氏広島城入城400年記念事業を締めくくる行事である。

 企画・立案や展示品の搬入、見学者の受け入れ準備にPR活動と、初釜が終わっても忙しい日々が待っている。

 文・林仁志編集委員、写真と動画・高橋洋史、宮原滋。


【武家茶道 新たな時代へ】上田宗箇流若宗匠の1年

 <1>歴史の重み
 <2>来し方行く末
 <3>年越しの茶事
 <4>宝の数々
 <5>慌ただしい日々
 <6>桜に託す思い
 <7>流祖をしのぶ
 <8>夏の装い
 <9>妙味発信
 <10>ヒロシマと向き合う
 <11>早朝のもてなし
 <12>追慕の野点

この記事の写真

  • 薄茶席には家元夫人の弥生さん(右)も加わり、家元(左)、若宗匠とともに新年をことほぐ。障子越しに差し込む朝の光が鎖の間を照らす
  • 若水をくみ上げる若宗匠。元日の午前4時ごろ、冷え込みは厳しく、井戸の水からかすかに蒸気が立ち上った
  • 茶事が終わると和風堂にある浅方社に詣でる。家元(左)や師範代(右)が見守る中、若宗匠がサカキの葉をささげる
  • 12月31日午後11時。赤い火を宿した炭に灰をかぶせてうずみ火にする若宗匠
  • 祝い膳の席で、出席者に酒をつぎながら新年のあいさつをする若宗匠(右端)

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