【こちら編集局です】新型コロナ 保険適用で検査にどう向き合う?
中国地方で新型コロナウイルスの感染者が少ないのは「検査をせず陽性者を隠しているからだ」などの意見が複数、編集局に寄せられた。いったい何が起きているのか。きょうからウイルス検査は保険適用となったが、どう向き合えばいいのだろう。
▽医療崩壊の回避も重要
広島市の内科医からは、保健所に検査を断られたという40代女性の情報が寄せられた。女性に連絡すると「自分が『コロナ』を広げてしまうのが一番心配だった」という。2月下旬に経験のない息苦しさに襲われ、1週間後には38・2度の発熱。中国から来た人とも接していたため感染を覚悟し、持病もあって心配していた。
この女性と内科医が保健所に電話したが「検査はできない」と言われた。いったいなぜだったのか。
内科医の診療所では、感染すると重症化する懸念のある透析患者を診ていた。そのため女性から電話で相談を受けたが、他の患者の感染を避けるために院内での診察はしていなかった。保健所を担当する市健康推進課に尋ねると「今回は、診察した医師が総合的に判断するという『基準』を満たしていなかったと聞いている。ただ、意思疎通がうまくいかなかったのかもしれない」と弁明する。
日本医師会によると、医師が必要と判断したのに保健所が応じなかったため検査しなかった事例は広島県で6件。広島市の40代女性の事例は含んでいないが、同じようなことは全国であるようだ。
少なくとも医師が疑った場合は検査した方がいいのではないか。きょうから制度上は検査が保険適用となり、医師が必要と判断すれば保健所を通さずに検査ができるようになる。広島県でも、必要な人に検査ができるようにすべきだろう。
ただ、医師の判断もないのに、患者個人が心配だからといってすべて検査に応じればいいわけではないようだ。専門家は、怖いのは過剰な検査が生む医療崩壊という。さらに「ウイルス検査は万能ではない」という声も聞こえてくる。
広島大大学院の坂口剛正教授(ウイルス学)は「感染者すべてが陽性になるわけではない」と説明する。日本環境感染学会などによると新型コロナウイルスのウイルス量はインフルエンザの100分の1〜千分の1。特に発症初期は体内のウイルス量は少なく、陰性になっても不思議ではない。
逆に「偽りの陽性」が多くなることもある。広島大病院感染症科の大毛宏喜教授は「感染者の割合の少ない地域ほど偽りの陽性が多く出る」と話す。かぜ症状で検査を受けた人のうち、陽性の人の半分以上が「偽り」のことも想定される。
今は感染者が全国各地で確認されているが、数はまだ千人程度にとどまる。大毛教授は「偽りの陽性の患者に医療のエネルギーを取られると、リスクの高い人に適切な医療を提供できない可能性がある」と危惧する。中国・武漢市の死亡率が高いのも、医療機関に患者が一気に集まり、救命措置が必要な人に医療が届かなかったことが一因とみる。
検査によって患者の不安に応えることも大切だが、重症化しそうな人が出たときに指定医療機関のベッドが空いていなければ大変だ。持病がなく、これまで軽い風邪くらいでは医療機関に行かなかった人まで受診して検査を求めるのは、本人にとっても社会にとってもマイナスなのかもしれない。検査の在り方を冷静に考えるときだ。(衣川圭)
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