【こちら編集局です】春のカキ、実は美味 エサ豊富で身太りも一番
生産量で全国一を誇る広島県産のカキ。冬の味覚として知られるが、広島市内に住むカキ好きの会社員女性(43)から、こんな疑問が寄せられた。「むしろ春がおいしいと聞きましたが、本当ですか」。冬が旬というのは、思い込みだったのだろうか。
2月中旬、廿日市市であった「地御前かきまつり」。毎年訪れるという家族連れに旬はいつか聞くと、「寒いと身が締まるから1、2月では」との答えが返ってきた。
ところが、会場にいた生産者の1人、地御前漁協の北山武邦理事(74)は「一番身が大きゅうなっておいしいのは3、4月」と話す。「漁師はみんな知っとる。でも、消費者は冬が旬と思うとるんで春は売れん。卸値も下がるんよ」
春ガキのおいしさを実証した研究者がいると聞き、広島大大学院統合生命科学研究科の羽倉義雄教授(食品工学)を訪ねた。生産者から「1月を過ぎると消費がどっと落ちる。春の味が冬に劣らないと証明できないか」と相談を受けた羽倉教授。呉市の養殖業者の協力を得て2008〜9年にほぼ毎月、カキのうま味成分の含有量を調べた。
すると、主なうま味成分である8種類のアミノ酸は4月が12月の1・3倍。グリコーゲンも微増していた。09〜10年の調査でもほぼ同様の結果が得られた。おいしさは、既に数値で実証されていた。
なぜ、春がおいしいのだろう。広島県立総合技術研究所水産海洋技術センター(呉市)によると、3月に入ると水温が上がり、カキのエサになる植物プランクトンが豊富になるからだという。3、4月に取れたカキは、1年間で最も身が太って味も濃厚だ。5月に入ると卵を持ち、加熱後に身がパサつくなど味も落ちる。
これだけの証拠がそろっていながら、どうして春ガキは人気がないのか。羽倉教授は、研究結果が報道された11年5月は東日本大震災の2カ月後で人々の関心が集まりにくかったことを理由の一つに挙げる。また、「広島には焼きがき、鍋など冬のメニューで楽しむ食文化があるのでは」と推測する。実際、年末年始に贈答用や自宅向けに購入する県民は多く、生産者もそのタイミングに合わせて出荷するようだ。
注目度の低い春ガキだが光が当たり始めている。広島県は今月、観光プロジェクト「牡蠣(かき)食う研」の公式ホームページで「春ガキ」をアピール。水産加工のクニヒロ(尾道市)は「春のみるく牡蠣」と銘打ち、既にブランド化を進める。同社を含む加工業者には、3月以降に取れた身太りのいいカキを冷凍して高品質の商品として売るところもある。
「広島の春ガキ」がメジャーになる日も、そう遠くないかもしれない。(標葉知美)
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