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村岡知事研究 <上> 自治のスタンス 政策判断、色濃い国の影

2020/4/1 21:31
地上イージス配備の賛否の判断時期について「国の説明を受けている途中」と明言しなかった村岡知事(2019年9月30日)

地上イージス配備の賛否の判断時期について「国の説明を受けている途中」と明言しなかった村岡知事(2019年9月30日)

 ▽国防など難問 考え見えず

 「秋田の知事ははっきり反対といっている。なぜ、いつまでも賛否を明らかにしないのか」

 県庁の知事室前で昨年12月、村岡嗣政知事に報道陣は何度も問い掛けた。陸上自衛隊むつみ演習場(萩市、阿武町)に配備が計画される地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」。政府がもう一つの候補地の秋田市で配備見直しの検討に入った直後だった。村岡知事は「現段階で結論を得るには至っていない」と繰り返した。

 総務省の官僚出身の村岡知事。前知事の病気辞職に伴い6年前、県議会主流派の自民党に担がれ初当選した。人件費カットや事業見直しで県財政の黒字化に見通しを付けた。各地のマラソン大会に出場したり、イベントでギター演奏を披露したりと47歳の若さを前面に打ち出す。ある県幹部は「手堅い行政運営で、派手さはないが失点もない。人当たりが柔らかいので敵をつくりにくい」と評する。

 ▽率先して宣伝役

 主催事業でも率先してプレゼンテーションを買って出る村岡知事。だが、前述のイージス・アショアなど県民の間で意見が分かれる問題に際しては歯切れが悪い。記者会見や議会答弁では「県民の安全のため、国に言うべきは言う」と述べるが、難問に対し「イエス」か「ノー」か踏み込んだ発言はほとんどない。

 地上イージスを巡っては地元阿武町の花田憲彦町長がいち早く反対を表明しているが、村岡知事は「国の説明を受けている途中」と立場をはっきりさせていない。賛否を判断する時期についても「スケジュール感を持って考えているわけではない」と明言を避ける。

 2018年11月に起きた米軍岩国基地(岩国市)所属戦闘機の墜落事故では、隣県広島の湯崎英彦知事が早々と基地や日本政府に同型機の飛行停止を求めたのに対し、村岡知事は安全対策の徹底を要請するのにとどめた。これに対しては直後の県議会本会議で野党議員が「言うべきはいまでしょ」と批判を浴びせた。

 賛否が割れる中国電力の上関原発計画を巡っても原発に対する自身の見解を明らかにする場面は少ない。

 一方、国の方針が鮮明な問題では明確なスタンスを打ち出す場面が見られる。

 19年12月の県議会一般質問。核兵器禁止条約の締結を全ての国に求めるヒバクシャ国際署名になぜ協力しないのか問われると、署名が政府方針と反していると説明し「署名に応じる考えはない」と言い切った。ヒバクシャ国際署名は広島や島根、鳥取を含む20都道府県知事が名を連ねる。村岡知事は被爆地広島市で財政課長を務めた経歴もある。

 この一般質問は核兵器廃絶を訴えるローマ教皇の広島訪問を受けてのものだったが、村岡知事は議会後の取材に「政府方針を尊重する。教皇が言っているとかは関係ない」と答えた。

 ▽「国の指示待ち」

 与党自民党の勢力が圧倒的に強い山口の知事故か、国が音頭を取る事業の取り込みは他県の比ではない。本年度の県の目玉事業である第5世代(5G)移動通信システムや情報通信技術(ICT)、関係人口の拡大など新規事業には国が旗を振るものが目立つ。

 こうした政治姿勢について山口大の立山紘毅教授(憲法・情報法)は「就任6年となるが、知事のやりたいことが一向に見えてこない。国からの指示を待っているだけのようにさえ思える」と指摘する。

 一方、村岡知事は取材に「企業誘致とか一生懸命やっているが、県民にはなかなか分かりづらいのかもしれない。独自色についてはもっと努力しないといけない」と話している。

    ◇

 ノーベル賞学者も輩出する県内の進学校から東京大、官僚の道をたどり、故郷へ凱旋(がいせん)した村岡知事。明治維新の勝ち組として中央へ人材を送り出し、日本の政治を動かしてきた山口の立身出世のコースと重なる。この2月に2期目の任期を折り返した令和の世の若きリーダーの歩みを通じ、山口県政を考察する。(門脇正樹)

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