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【こちら編集局です】「新型コロナ感染 情報量乏しく不安」 強制力なし 悩む自治体

2020/4/3 22:57
広島市が2日に発表した感染者が働く飲食業者が経緯を明かしたホームページ。市は名前を公表していない(画像の一部を修整しています)

広島市が2日に発表した感染者が働く飲食業者が経緯を明かしたホームページ。市は名前を公表していない(画像の一部を修整しています)

 「情報量が乏しく、かえって不安が増す」。新型コロナウイルス感染者の公表の在り方を巡り、こんな声が編集局に相次ぎ寄せられている。広島市も2日、新たな感染者3人の性別や年代、職業などを非公表とした。患者や行き先の情報をどこまで明かすべきなのか―。取材すると、対応に苦慮する地方自治体の姿が見えてきた。

 ▽感染者追えぬ恐れも

 2日夜、広島市が開いた記者会見。「患者は被害者だと思う」。阪谷幸春・保健医療担当局長はそう強調した。「嫌がる情報を出せば心を閉ざし、本当に聞きたい行動歴、濃厚接触者などの情報が聞けなくなる。それは絶対に避けないと」。患者の協力を得るために、互いの信頼関係を築く必要があるという。

 市は2日に発表した別の感染者が働く飲食業者の名前も明らかにしなかった。一方で、飲食業者は臨時休業しており、ホームページで経緯を公表。体の不調がある利用客には保健所に連絡するよう呼び掛けている。中国新聞の取材には「利用客や従業員の安全を最優先した」と説明する。

 読者からは「業者は公表しているのに、なぜ市は隠すのか」との指摘もある。市は「利用客が特定でき、感染拡大は防げると判断した」と説明。公衆衛生上の必要があれば本人を説得してでも公表する―とのスタンスを示す。

 感染症法は、予防に必要な情報を積極的に公表するよう国と都道府県に義務付ける。一方、公表時には「個人情報の保護に留意」するよう求め、個別のケースをどう扱うかは自治体に委ねられる。情報の公開に同意が得られない事例もあり、自治体からは「法の強制力がなく、限界を感じる」とため息が漏れる。

 他の自治体はどうか。大阪市では2月、ライブハウスでクラスター(感染者集団)が発生。大阪府は店側の協力を得て、実名を公表した。結果、16都道府県で計105人の感染を確認できたという。

 府も今は、ナイトクラブなど夜間営業の飲食店で発生したクラスターの調査に頭を悩ませる。店の同意が得られず、実名が公表できないまま、濃厚接触者の特定が難航。公表に同意した事業者への補償制度の創設も検討しているという。

 専門家の意見も割れる。関西福祉大(兵庫県赤穂市)の勝田吉彰教授(渡航医学)は「感染者の年代、性別まで伏せるやり方は疑問がある。あいまいな情報はうわさや臆測を呼び、社会不安を引き起こす」と積極的な情報提供を求める。

 一方、立命館大(京都市)の美馬達哉教授(医療社会学)は「患者が非難されないようプライバシーは守るべきだ。患者の接触者の追跡には、患者との信頼関係を最優先する必要がある」と強調する。

 個人の権利を尊重しながら、公共の福祉をいかに守るかが突き付けられている。(田中美千子、山成耕太) 

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