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【武家茶道 新たな時代へ】上田宗箇流若宗匠の1年<6>桜に託す思い

2020/4/4
「多くの人にめでていただきたかった」。満開になった書院庭園のシダレザクラを眺め、特別公開の中止を残念がる若宗匠

「多くの人にめでていただきたかった」。満開になった書院庭園のシダレザクラを眺め、特別公開の中止を残念がる若宗匠

 ▽地域貢献 友と語らう

 彼岸を過ぎたころに庭の桜は満開になった。人の世の揺らぎをよそに、時が至れば咲き始める。花の確かさ、頼もしさ。眺めていると身中に力が湧いてくる。

 武家茶道上田宗箇(そうこ)流の上田宗篁(そうこう)若宗匠(41)は3月下旬、温めていた考えを実行に移すことにした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、行事の中止や縮小は続くが、「それでもできることはある」。年齢の近い知人に連絡を入れた。

 夏祭り「とうかさん」で知られる円隆寺(広島市中区)の副住職中谷康韻さん(36)、広島東照宮(東区)や饒津(にぎつ)神社(同)の権禰宜(ごんねぎ)久保田峻司さん(33)、広島イエス之御霊教会(安佐北区)の副牧師森若聖嗣さん(35)の3人である。

 寺院や神社、教会といえば地域コミュニティーの核ともいえる。住民との密な交わりはあるのだろうか、宗教に関心を持つ人もかつてほど多くはないのではないか。文化の世界も似たような面があり、いかに理解者や愛好者を広げていくかという課題がある―。

 「それぞれ地域とのつながりをどう保ち、強めようとしているのかを聞いてみたい」。上田流を継ぐ若宗匠のテーマの一つは、地域貢献という。

 若宗匠は26日、上田流和風堂(西区)に3人を招いた。中止になった特別公開の内覧会を予定していた日である。敷地内を案内し、書院庭園のシダレザクラを見てもらうなどした。続いて書院の松涛(しょうとう)の間で意見を交わし、お茶を味わいながら雑談もした。

 森若さんが「(教会は)敷居が高いと思われているのかな」と悩みを打ち明ければ、久保田さんは「パワースポットや朱印のブームもあって、参拝客は多い。ありがたいけれど、神社について理解していただいているのかは分からない」などと応じた。

 中谷さんは寺に人を集めるのも大切としつつ、「仏教を分かりやすく伝える自分なりの方法を確立し、活動の場を広げたい」と意気込んだ。

 それぞれの教義や文化的な価値といった魅力をどう伝えていくか。大切なのはまずは多くの人に見て触れてもらい、幸せな気持ちになっていただく。それが地域を盛り上げることになるのではないか。各人が努力し、具体的なアクションも考えていこうということになった。

 若宗匠には一案があるという。「書院屋敷の中となると大変だが、旧国道沿いの冠木門(かぶきもん)を開けて、前庭で一般の方にお茶を楽しんでもらうようなことはできないか」。間口を広げるためにさまざまなアイデアを練り、チャレンジするつもりだ。

 ▽花が花追う シダレザクラ

 上田流和風堂には各所に桜が植えてある。流祖上田宗箇が好んだシダレザクラである。それぞれ咲く時期が微妙に異なり、花が花を追いかける。3月の終わり頃から4月初めにかけて楽しめる。

 最初に咲き出すのは和風堂数寄屋近くの1本で、袖垣を隔てて次の間の前にある。縁先には禅語「心径苔生(しんけいたいせい)」を刻んだ宗箇好みの立ち蹲踞(つくばい)があり、水鏡に花姿が映る。手水鉢の前にシダレザクラを植えるのは、作庭家でもあった宗箇の手法でもあったという。

 次に開くのは、上田家書院庭園のシダレザクラである。若宗匠は「樹齢ははっきりしないが、80〜90年くらいではないかと言われています」。江戸時代初期に宗箇が広島城内に拝領した上屋敷にも桜があり、昭和初期に移ってきた現在地でも、伝来の古絵図にのっとって同じような配置にしているという。

 「この木が4代目。次の時代を見据え、5代目を準備しています」と若宗匠。書院庭園の奥にある小高い丘で花をつけている若木がそうだ。

 書院屋敷の前庭に続く長屋門にもシダレザクラの大木がある。花を開くのは最も遅く、ことしは書院庭園の桜が満開になった時もまだつぼみだった。

 上田家の桜には由来がある。宗箇が初代岩国藩主の吉川広家から数本のシダレザクラを贈られ、返礼としてミミズクを彫った手水鉢を届けたと伝わる。2人はともに天下人豊臣秀吉に仕え、茶の湯を通じた親交もあった。

 文・林仁志編集委員、写真と動画・高橋洋史、宮原滋。

この記事の写真

  • 水鏡に映る桜の花と青い空。手水鉢の近くに桜を植えるのは流祖宗箇の手法という
  • 久保田さん(左端)、森若さん(左から2人目)、中谷さん(同3人目)に書院庭園の桜の由来を説明する若宗匠
  • 悩みや取り組みたいことなど意見を交わした後にお茶を楽しんだ
  • 和風堂数寄屋近くに植えてあるシダレザクラ。最も早く咲き出すという

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