【こちら編集局です】家庭内暴力、我慢せず声を 「新型コロナで在宅時間増。DV深刻化が心配」
▽相談機関、外出自粛でも対応
配偶者やパートナーからの暴力「ドメスティックバイオレンス」(DV)が、新型コロナウイルスの影響で深刻化するのではないか―。そんな声が広島県内でDV被害者を支援する現場から編集局に寄せられている。いったい、なぜなのか。おびえるDV被害者や、心配する支援者たちを訪ねた。
「夫が在宅ワークするようになってから、家の中では気が休まらなくて…」。今月初め、県内の女性は疲れた表情を見せた。
会社員の夫は「主婦のくせに家事もまともにできないのか」が口癖。食器の並べ方や料理の味など細かい文句を言い、怒るとテレビのリモコンなどを投げる。その夫が会社の感染対策で月の大半は在宅ワークとなり、家にいる時間が1日10時間も増えた。
夫は外に出られずいらだつのか、ますます口うるさくなった。朝から晩まで家事をチェックし、文句を言う。女性が出掛けようとすると「ウイルスが家に持ち込まれる。感染したらおまえのせいだ」と怒鳴られた。暴力がエスカレートするのが怖い。「これまで夫の帰りが遅いのが救いだったのに。いつまで我慢すればいいんでしょうか」と女性は嘆く。
暴力は夫からだけにとどまらない。貧困に苦しむ家庭などを支えるNPO法人食べて語ろう会(広島市中区)には、多くの学校で休校が始まった3月、子どもの暴力に悩む母親から相談が相次いだ。
給食の代わりの昼食費が負担になる家庭も少なくない。ある母子家庭の親からは「中学生の息子に十分食べさせてやれない。息子はストレスをため、私に暴力を振るうようになった」と訴えが届いたという。
こうした家庭内の暴力がもっと増える恐れがあると、県内自治体の婦人相談員や民間支援者は心配する。外出自粛が長期化すると、家族が自宅に一緒にいる時間が増える。さらに、経済が縮み、雇用が不安定になる中、家計悪化はDVの温床となるからだ。
こんなときこそ、相談することが大切だ。しかし、外出自粛は相談機関の活動にも影響を及ぼす。
NPO法人小さな一歩・ネットワークひろしま(広島市西区)は、家庭内の悩みなどを傾聴する常設のスペースを今月1日に臨時閉鎖した。人の密集を避けるためで、再開の見通しが立たない。DV被害者の一時保護にも携わる同法人の米山容子代表(61)は「苦渋の決断」と語る。定期的にスペースに来て精神的な安定を保ってきた人もおり、緊急のSOSに対応するため、個別面談の電話予約は受け付けている。
エソール広島(中区)は3月は感染予防のため、相談事業を縮小していたが「不安を吐き出すニーズは日々高まっている」と判断。今月2日から通常の態勢に戻した。遠方から通勤するスタッフの体調管理や面談室の換気を徹底する。
新型コロナウイルス対策に、家庭内暴力(DV)・児童虐待防止の観点を盛り込んでほしい―。NPO法人「全国女性シェルターネット」(東京)は、国に要望書を出した。
要望書は「暴力を受けても、感染不安から通院治療を控える当事者が増える」「事前準備なしの緊急一時避難が増える」など予測される事態を伝えた。
共同代表の北仲千里・広島大准教授(社会学)は「こんな状況だからと耐えている被害者が多いのではないか。さまざまな支援機関が工夫しながら声を受け止めているので、我慢しないで助けを求めてほしい」と呼び掛けている。(久保友美恵、ラン暁雨)
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