【こちら編集局です】テークアウトのルール、新規参入の飲食店困惑 時代に即した対応を
新型コロナウイルス感染拡大に伴い苦境に立つ飲食業界で、テークアウト(持ち帰り)に活路を見いだそうとする動きが広がっている。しかし、新たに参入した店から「ルールが分かりにくい」との声が編集局に寄せられた。持ち帰り方法などを巡って保健所から指摘を受け、軌道修正を余儀なくされたという。取材すると、曖昧で、首をかしげるようなルールの一端が浮かんできた。
「料理のおいしさを維持でき、容器代わりにもなると思ったのだが」。広島市南区のフランス料理店「エピュレ」のオーナーシェフ、浅田浩司さん(50)は残念がる。今月中旬から予約制のテークアウトを始めた同店。スープの持ち帰り方法を市保健所に相談すると待ったがかかったという。
浅田さんが考えていたのは真空パックの活用。ふた付き容器と違ってこぼれる心配がない▽衛生的で味も損なわない▽温め直しも簡単―といった理由からだ。しかし、保健所の指摘を踏まえ、ふた付き容器でスープを提供することにした。
どうして真空パックで提供できないのか。基本的に営業許可を受けた飲食店は、注文を受けて店内で作った料理を持ち帰り販売するのに特別な手続きは必要ない。一方、この許可は、店内の客への料理提供を主に想定する。つまり、出来たての料理を食べてもらうことがテークアウトの大前提で、長期保存できる真空パックでの提供は趣旨に反する、というわけだ。
飲食店の営業許可の根拠となる食品衛生法が制定されたのは1947年。改正を重ねてはいるが、時代に十分対応しているとは言い難い。市保健所の担当者も「包装や冷蔵の技術は日々進化している」と、現場対応の難しさを打ち明ける。
「持ち帰りで提供できる料理の一覧表があればいいのに」。フランス料理店「らんぷドゥージエム」(中区)を経営する美紀子エヌゲ田坂さん(40)は素朴な思いを吐露する。
今月上旬にテークアウトを始め、デザートとして自家製タルトの提供も考えた。しかし、一般的には菓子製造業の営業許可が必要で、許可を得ていないため断念した。
田坂さんの店の自家製タルトは持ち帰りできないのか。市保健所に尋ねると「スイーツ関係は、調理方法によっては許可がなくても提供できる可能性はある」。実に分かりにくい。
食べ物の種類やレシピが多様になり、テークアウトの可否を一様に線引きしにくい事情もあるだろう。市保健所は「テークアウトを始める際には個別に相談してほしい」と呼び掛ける。
飲食店のテークアウト拡大の流れは、しばらく止まりそうにない。もちろん食の安全を第一に考えなければならないが、この緊急事態の中、店側が戸惑うルールではスピード感を持って対応しにくいだろう。時代に対応した、店や客本位の分かりやすいルールが必要だ。(山成耕太)
あなたにおすすめの記事
こちら編集局です あなたの声からの最新記事
-
森氏の女性蔑視発言「時代錯誤」「心底怒り」【こちら編集局です】 (2/5)
▽批判が大半、男性も問題視 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視発言を受け、編集局は5日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者に受け止めを尋ねた。寄せられた約200件の...
-
【こちら編集局です】広島県と広島市、公共施設の休・開館の判断は 運営の協議・調整なく (1/18)
▽休館→広島市、コロナ対策で独自基準/開館→県、市民生活への影響最小限に 新型コロナウイルス感染防止対策で、広島市内の図書館など市民に身近な公共施設の運営に関して広島県と市の対応が分かれている。市が...
-
【こちら編集局です】広島県、コロナ集中対策再延長 感染防止強化に理解 時短効果疑問視も (1/14)
広島県が14日、新型コロナウイルスの集中対策期間を2月7日まで再延長する方針を決めた。広島市で国の緊急事態宣言の対象地域に準じた対策を講じ、飲食店への営業時間短縮の要請エリア拡大など、従来より強化す...
-
【こちら編集局です】「安倍氏説明を」多数 政治へ不信感や怒り (12/22)
安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填(ほてん)問題で、安倍氏が東京地検特捜部から任意で事情聴取を受けた。編集局は22日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者...
-
【こちら編集局です】Go To停止「遅すぎ」 政府の対応、批判が大半 (12/15)
「中止は当たり前」「判断が遅すぎる」―。菅義偉首相が14日夜、表明した観光支援事業「Go To トラベル」の全国一時停止。表明後、編集局が無料通信アプリLINE(ライン)を通じて意見を募ると、約2時...
「こちら編集局です あなたの声から」では、みなさんが日ごろ「なぜ?」「おかしい」と感じている疑問やお困りごとなどを募っています。その「声」を糸口に、記者が取材し、記事を通じて実態や話題に迫ります。以下のいずれかの方法で、ご要望や情報をお寄せください。
LINE公式アカウント
メール
「こちら編集局です」ご意見・情報提供はこちら
郵送
広島市中区土橋町7-1
中国新聞社
「こちら編集局です」係
ファクス
「こちら編集局です」係
082-236-2321