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【食財食人】秋穂のクルマエビ 秋穂車えび推進協議会会長・八木政治さん(66)

2020/5/9 20:43
養殖場で育てたクルマエビをかごに移す八木会長(撮影・山下悟史)

養殖場で育てたクルマエビをかごに移す八木会長(撮影・山下悟史)

 ▽「世界初」の技術伝える

 穏やかな周防灘に面した山口市秋穂。萩市出身の農学博士藤永元作(もとさく)が1963年、世界で初めてクルマエビの養殖事業に成功したことから「クルマエビ養殖発祥の地」として知られている

 もともと秋穂では明治時代から周辺の周防灘で取ったエビを池で育てる「畜養」が盛んだった。藤永博士は秋穂に研究拠点を移し、塩田跡地に養殖場を開設。天然エビから採取した卵を人工ふ化させて育てる仕組みを確立した。

 エビを温暖な周防灘と同じ環境で育てる方法はずっと同じ。ストレスなく育つエビはつややかなあめ色の体やぷりっとした食感、甘みが特長。生き作りの「おどり」やエビフライ、塩焼きなどで楽しめる。年末年始の贈答品としても人気だ。

 ▽養殖の規模縮小

 交友関係が広かった藤永博士が大宅壮一や井上靖たち各界名士の出資を受けて起業したのを機に、地区ではクルマエビ養殖が広がった。現在は4業者が生産している

 養殖技術が確立し、安定した生産ができるようになったのは1980年代前半。私は藤永博士が立ち上げた会社に勤めていた。これまで高潮で養殖場が壊滅状態になったり、エビが病気で全滅したりと順調なことばかりではなかった。人手不足から各業者が生産規模を縮小し、地区全体の生産量はピーク時である1982年の約200トンから昨年度は約20トンにまで縮んでいる。それでも「クルマエビ養殖発祥の地」として今後も品質の高いエビを飲食店や食卓に届けていきたい。

 地元ではクルマエビを地域のシンボルにしようと、観光協会が1991年からクルマエビのつかみ取りの数を競う「えび狩り世界選手権」を開催している。また、地元の養殖業者や飲食店などが2016年、秋穂車えび推進協議会を立ち上げた

 「えびの町」を掲げる秋穂にはエビの姿をイメージした建物の道の駅があり、エビのみそ漬けなど加工品を多く扱ってきた。私は協議会の初代会長に選ばれ、各業者の共通パッケージやパンフレットを作った。親しみやすいようブランド名はひらがなで「あいおえび」と名付けた。首都圏や若い世代をターゲットにふるさと納税の返礼品としても売り出している。

 ▽担い手が高齢化

 地域の養殖業を巡っては、輸入エビとの価格競争に加え、担い手の高齢化などで今後の生産をどう維持していくかが課題となる

 藤永博士の起こした「瀬戸内海水産開発」など養殖業者の倒産や閉鎖を経ながらも県外の事業者の新規参入などで地域の生産は維持している。今年は全国展開する水産業者が秋穂で本格的に生産を始めるので地区全体の年間生産量は50トンほどに増える見込みだ。

 40年以上クルマエビ養殖を続けているが、エビの出来は天候に左右され、一年として同じ年はない。経験を若手に伝え、新たな担い手を育てていくことが大事だ。秋穂に根ざしたクルマエビ養殖を末永く継承していきたい。(聞き手は原未緒)

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  • 皿の上で動くほど生きのいいクルマエビの刺し身「おどり」(手前)と塩焼き(奥)

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