【こちら編集局です】9月入学、導入の課題は 初年度、人手不足の恐れも
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う学校休校が長期化する中で浮上した「9月入学制」の導入議論。編集局が1日、無料通信アプリLINE(ライン)でつながる読者を対象にした緊急アンケートでは、6割が「賛成」と回答した。政府は、来年導入する可否について具体的な検討に入った。導入するには、どんな課題をクリアする必要があるのか。
文部科学省に尋ねると、まず関連の法規則の見直しが必要という。就学年齢は学校教育法で定められ、施行規則で小中学校などの学年は「4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる」と決められているからだ。
9月入学への移行は、4月始まりが浸透している日本の社会経済システムに大きな影響を及ぼす。国、地方自治体の会計年度も9月始まりにするのか。3月卒業を前提とした国家試験、企業の採用活動などのスケジュールの見直しも迫られる。3月に幼稚園や保育園を卒園した新小学1年生を、秋までどこで受け入れるかも課題だ。
「最も大きな課題の一つは、一時的に急激な人手不足が起きる可能性があることだ」。中教審特別部会委員を務めた経験がある教育研究家の妹尾昌俊氏は指摘する。新たな働き手となる中高生や大学生らの卒業がずれ込むことで、人材供給に空白が生じかねないためだ。
例えば高校生。文科省の2019年度学校基本調査によると、高校を卒業し、就職したのは全国で約18万人。広島県では3668人に上る。
「今、人手不足が指摘されている医療や介護、保育などの分野への影響が特に大きい」と妹尾氏はみる。
グローバル化が進む中、欧米の大学で標準的な秋入学は、さまざまな場で問題提起されてきた。12年には東京大が秋入学への全面移行を検討する方針を明らかにし、全国の大学で議論が活発化。広島大も同年、検討を始めた。しかし、両大学とも導入を見送った。
「やはり学外の『カレンダー』とのずれを克服するのは難しかった」。当時の広島大副学長で、検討部会の座長を務めた広島文化学園大の坂越正樹学長(教育学)は振り返る。高校の卒業時期や企業の採用活動などとのずれに柔軟に対応するため、春と秋の入学を併存させる方向で検討した。1年以上かけて議論したが、導入への壁は高かった。
政府は9月入学制導入に関し、論点整理した上で6月上旬にも方向性をまとめたい考えだ。坂越学長は今も9月入学に賛成の立場。今度は実現の可能があるのでは―。そう尋ねると、坂越学長は首をひねった。「あと1カ月でメリット、デメリットを見極め、制度設計するのは困難ではないか」。子どもの学びが途切れないよう努力している学校現場を支えることが最優先だ、と力を込める。
休校による学習の遅れや学校再開時期のばらつきが生じることへの不安解消策として浮上した9月入学制。利点とともに大きな「副作用」もある。改革に伴うコストも膨大だ。「議論を進めるなら、政府はクリアすべき課題や影響を全て整理して示し、国民の理解を得る努力を尽くす必要がある」。坂越学長は、政府の本気度が問われると指摘する。(奥田美奈子)
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