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検察庁法改正見送り 白紙に戻し仕切り直せ

2020/5/20

 政府、与党が検察官の定年を延長する検察庁法改正案の今国会での成立を断念した。著名人を含む多くの市民が会員制交流サイト(SNS)などで異議を表明するなど、世論の強い反発が強行を思いとどまらせたのだろう。民意が暴挙を止めた意義は大きい。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため国民は不要不急の活動を控え、我慢を強いられている。困窮者への対策などが急がれる今、この法改正こそ不要不急との批判も高まっていた。

 安倍晋三首相は「国民の理解なくして前に進むことはできない」と述べた。だが世論の反発や批判を正面から受け止めてはいないようだ。法案は撤回せず、そのまま先送りする。一本化している国家公務員法の改正案と共に継続審議にし、秋の臨時国会で議論する考えらしい。

 問題の核心は、ほかの国家公務員と同様に検察官の定年年齢を引き上げることにあるのではない。内閣が認めれば、特定の幹部を、そのポストに残すことができる特例規定にある。

 特例規定があれば、政権の思惑に沿って検察人事が動かされ、犯罪捜査を担う検察の政治からの独立性が損なわれる。時の政権が特例を使って捜査を左右する恐れが生じる。政権にとって都合のいい人物が長期間検察を牛耳る仕組みができれば、政界捜査への信頼性が揺らぐ。

 それだけに検察OBたちも黙っていられなかったのだろう。元検事総長らに続き、政界捜査に当たった経験のある元特捜検事らも「将来に禍根を残しかねない改正を看過できない」として再考を求める意見書を法務省に提出した。元検察トップらが政府提出法案を公然と批判するのは極めて異例のことだ。

 検察官は公務員ではあるが、必要であれば首相をも逮捕できる強大な権力を持つ。そのため、厳密な公平公正さが課せられ、同じ事案を誰が処理しても同じ結果を出すことが求められる。政府の言う「特定の幹部」でなければ職務が遂行できないということがあってはならない。特例規定はこの原則にも明らかに反している。

 問題の発端は、政権に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の定年延長を、1月末に閣議決定したことにある。政府は法改正とは無関係だとしているが、2月に定年退官するとみられた黒川氏の勤務を8月まで延長した。慣例通りなら現在の検事総長は7月ごろに辞める。黒川氏を後任に据えるために「禁じ手を使った」として、野党は違法性を追及していた。

 改正法案が後付けで黒川氏の人事を正当化するものだとの批判はもっともだ。政府が今国会での改正を断念しても黒川氏の処遇はそのままだ。本人はどう受け止めているのだろうか。

 もちろん強大な権力を持つ検察捜査がブラックボックスであってはならない。暴走しないよう外部から検証できる体制を整える必要もある。

 国民が納得できないのは、現政権がこれまでもさまざまな疑惑に対し、審議を尽くさず、うやむやにしてきたからだ。そうした政治姿勢に今、厳しい目が注がれている。

 時間がたてば、国民の目をごまかせると考えているなら大間違いだ。先送りではなく、白紙に戻して仕切り直すべきだ。

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