コラム・連載・特集

≪新型コロナ≫WHO 内紛、何の益にもならぬ

2020/5/24

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を乗り切る核となるべき世界保健機関(WHO)が迷走している。主たる要因は、WHO脱退を駆け引きの道具に使う米トランプ政権の圧力である。

 全ての人々が可能な最高の健康水準に到達すること―。WHO憲章は第1条に掲げている。テドロス事務局長の「中国寄り」とみられる姿勢が背景にあるとはいえ、あえて内紛の火種を持ち込むトランプ政権の姿勢は何の益にもならない。

 新型コロナの感染拡大が一段落し、経済活動の再開が視野に入ってきた国も少なくない。今後の懸案は、新興国や途上国、無政府状態の紛争地や難民キャンプが温床となる感染爆発だろう。ブラジルの感染者数が米国に次いで一時世界で2番目となったことは深刻だ。

 こうした国や紛争地では、貧しい人たちがスラム街に密集して居住せざるを得ず、衛生状態が悪いことが往々にしてある。ホワイトカラー層が一定の割合を占める先進国とは違い、休むことなく日銭を稼がなければ暮らせぬ人たちも多い。

 難民キャンプや紛争地では、統計で感染実態をつかめず、対策が遅れがちなことも指摘される。例えば、バングラデシュ国内のロヒンギャ難民キャンプなどでは人道的な援助が急がれよう。バングラデシュを含む南アジアでは、解雇された出稼ぎ労働者の帰国に伴う感染拡大も懸念されている。

 紛争地については本来、国連が主導して感染防止のための一時停戦を促すべきだろう。それをグテレス事務総長は繰り返し説いてきたものの、米中対立のあおりで、安全保障理事会の議論は進んでいない。

 そうした状況下では、人類共通の危機である新型コロナへの対応は、WHOのほかに国際社会のよりどころがないのも事実である。今後は途上国や紛争地への援助が求められる中、あらためてテドロス事務局長の手腕が問われよう。

 治療薬やワクチンの開発を巡る国際協調にも、米中の対立は悪影響を及ぼしかねない。

 感染が全世界に広がっている以上、治療薬やワクチンを開発した国や企業はこれを公共財とみなし、途上国にもあまねく提供すべきだろう。米中両国は開発の先頭を走るだけに、足並みをそろえてもらいたい。

 むろん中国の習近平指導部が自国から感染が広まった事実から目をそらし、制圧に成功したとアピールしていることには違和感が拭えない。中国の初期対応については、WHOの主体性に基づく検証を求めたい。

 日本政府は感染源や感染経路の検証をWHOに求めるとともに、WHOを中心に国際社会の結束を訴えている。2017年以降、総会から排除されている台湾のオブザーバー参加を支持していることも含め、納得できる対応といえる。

 台湾は重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓から新型コロナにいち早く警鐘を鳴らし、マスクの増産体制やビッグデータの活用などを通じて感染の拡大を抑え込んだ。国際社会が学ぶべき点は多い。

 台湾のオブザーバー参加の実現は、WHOが政治と一線を画した国連機関であることを示す、またとない機会でもある。 

 あなたにおすすめの記事

  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

社説の最新記事
一覧