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中国の香港統制強化 「一国二制度」壊すのか

2020/5/30

 中国の全国人民代表大会(全人代)は、香港に国家安全法制を導入する方針を決定した。「国家安全を害する行為を防止、処罰する」とし、抗議デモなど反政府活動を押さえ込むのが狙いである。

 「一国二制度」の下、「高度な自治」が保障されてきた香港で、市民の言論や集会の自由が制限され、人権が侵害される恐れがある。香港市民による反発や国際社会からの批判は避けられまい。国際公約でもある「一国二制度」を壊す暴挙であり、許されない。

 本来は香港立法会(議会)の議決が必要な法制を、習近平指導部は頭越しに立法化しようとしている。しかも全人代で唐突に、法制の確立を表明した。香港の自由や民主的な手続きを無視した、だまし討ちのようなやり方ではないか。断じて容認できぬ。

 香港がアジア有数の活力を保ってきたのは、自由を尊重する社会だからだろう。情報統制下では、経済活動もままならず、世界に開かれた国際金融都市として価値も損なわれよう。

 香港では昨年、中国への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモが起き、習指導部は撤回に追い込まれた。その後、香港の地方議会に当たる区議会(地方議会)選挙では、民主派が圧勝した。ことし9月には、立法会の選挙も控えている。

 中国政府は、こうした民主化の動きに不安を覚えているに違いない。新型コロナウイルスの感染拡大に合わせるように統制を強めている。立法会では中国国歌の侮辱を禁じる条例案も審議中だ。香港市民は自由な空間がどんどん狭められていると感じているのではないか。

 李克強首相は、国家安全法制の導入について「一国二制度を長く持続させ、香港の繁栄と安定を守る」ためだと主張している。しかし力ずくでは解決できないことを認識すべきだ。

 欧米諸国を始め、国際社会も強い懸念を示している。特にトランプ米政権は「中国の破壊的な決定は香港の自治と自由を根本的に損なう」と非難を強めている。中国は内政干渉だと激しく反発しているが、米国の言い分はもっともだろう。

 米国は、香港に認めてきた関税や査証などの優遇措置を停止するなど対中報復措置の検討に入った。トランプ大統領にしてみれば、民主主義や人権と言った国際社会が共感しやすい大義を旗印に、中国に攻勢を掛けたいのだろう。秋の大統領選を前に、対中強硬姿勢をアピールする狙いがあるに違いない。

 しかしすでに米中は、貿易や新型コロナウイルス対策を巡って対立を激化させている。香港への統制強化が二つの大国の新たな火種となれば、世界の平和と安定が脅かされる。

 「一国二制度」は、英国の植民地だった香港が、1997年に返還される際の国際的な公約である。香港の憲法に当たる香港基本法は、返還後も資本主義を50年維持するとし、「高度の自治」を保障している。

 中国政府はそうした約束事を破ってはなるまい。香港への強硬姿勢は、習氏の国賓としての来日にも差し障る。日本政府も国際社会と手を携え、中国に「一国二制度」の順守を粘り強く求めていかねばならない。 

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