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殿様の「通信簿」

2020/6/1

 「バカ殿様」を演じた志村けんさんの訃報から2カ月になる。「殿様の通信簿」の著者磯田道史さんは酒席でよく聞かれた。あんな殿様は本当にいたのか―。いたでしょうと答えると、先方はがぜん話に乗ってきて…▲「通信簿」で磯田さんがたとえたのは岡山藩2代藩主の池田綱政。70人もの子をなし、専ら京の文化を好む優男の殿だったようだ。先代の光政は戦国の世を引きずった武人。藩政をつかさどっては「名君」と伝えられるだけに、父子は正反対だった▲光政は「救い銀」を儒学者に持たせて村を回らせ、現地の判断で洪水や飢饉(ききん)に窮する民に施したという。当節の政界でよく使う「スピード感」のはしりか▲とはいえ藩士たちは光政が隠居すると、内心ほっとした。全能の創業者の下で社員が畏縮するのに似ている。暗愚のようでいて、綱政も「仁愛慈悲第一の事」と正しく政道の心得を遺言していた。平和な時代なりの、心優しき二代目だったのだろう▲どこかにバカ殿様がいてほしい―。そんな妙な願望が私たちにはあると、磯田さんは記す。あの志村さんの「白塗り」に今なお人は頬を緩める。コロナと向き合うにも、社会のたづなの緩急が必要になる。 

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