【こちら編集局です】SNSでの攻撃<下>発信者の特定、より早く 「名誉回復には時間もお金も。制度変えてほしい」
▽「表現の自由規制」懸念も
ネット上に勤め先の悪口を書かれたのは1年前だった。「金を払って食べに行く店じゃない。近所の評判も客層も悪い」と一方的に攻撃された。広島市安佐南区の女性(48)は経営者と相談し、サイトの投稿フォームで何度となく被害を訴えた。が、返ってくるのは「報告ありがとうございます」という自動応答メッセージだけ。書き込みは今もそのまま残っている。
編集局の呼び掛けに応じ、この体験を寄せた女性は「何の手も打たないサイト管理者は、悪意あるユーザーと同罪だと思う」と憤る。「被害者が弁護士を立て、時間とお金を費やさないと名誉回復できないなんて。こんなおかしな制度は早急に変えてほしい」
ネットトラブルの実例を扱った経験がある広島弁護士会の谷脇裕子弁護士によると、事業者が削除に慎重なケースは少なくない。「表現の自由との兼ね合い」があり、誹謗(ひぼう)中傷と断定するのが難しいのが一因という。
発信者の情報の開示を、裁判所を通じて求めることはできる。今の制度ではまず、会員制交流サイト(SNS)などの事業者に対し、ネット上の住所に当たる「IPアドレス」の開示を請求。さらに接続業者(プロバイダー)に、そのIPアドレスを使った人物の名前や住所を求める。開示されてやっと、発信者への責任を追及できる。
この手続きが今、変わろうとしている。SNSなどの事業者に、IPアドレスだけでなく電話番号の開示も求められるようにする―。総務省の有識者会議は4日、その方向でおおむね一致した。
この問題に詳しい広島弁護士会の沖田篤史弁護士は「個人の特定の迅速化につながる」と歓迎する。今の手続きは煩雑で、時間も費用もかかる。海外の事業者とのやりとりに時間をとられるうちにIPアドレスの保存期間が切れ、足取りを追えずに請求を取り下げざるを得ない事例もある。電話番号が分かれば、弁護士を通じ、電話会社に発信者の名前や住所をすぐに照会できるようになる。
同省は投稿者の個人情報を開示する要件を緩めるなど、さらなる改正も模索する。だが、編集局には慎重意見も寄せられている。SNSで攻撃を受けた経験がある広島市西区の会社員男性(48)は「ヘイトスピーチや誹謗中傷には、法改正による規制が必要だ」と訴える一方で「表現の自由まで政府に規制されないか懸念している。政権批判は別物だ」とくぎを刺す。
「正当な批判」か「権利の侵害か」―。その線引きは難しい。沖田弁護士も「やり方を誤れば、自由な言論を萎縮させることになりかねない」と指摘する。
広島大大学院の匹田篤准教授(メディア論)は「SNSという公共空間でどう振る舞うべきか、倫理観を養うほかないが、ネットサービスの変化に社会の常識が追い付いていない。教育でカバーできなければ、一時的に規制をかけるのもやむを得ないのではないか」と投げ掛ける。(田中美千子、赤江裕紀)
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