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八ツ橋 老舗の争い

2020/6/12

 120年前、夏目漱石はロンドン留学の途中、花の都パリに立ち寄る。開催中の万国博覧会にも足を運び、にぎわいに目を丸くした。その万博で京都のお菓子が銀賞に輝き、名を広めるきっかけをつかんだ。八ツ橋である▲独特のニッキの香りと堅焼きの歯応えは当時のまま。人気では戦後生まれで種類豊富な「生八ツ橋」に押され気味だが、存在感は健在だ。ところが最近は、味以外のことでも話題に上る▲老舗同士の訴訟合戦になったからだ。1689年創業と名乗る店に対し、根拠がなく消費者を誤解させるとライバルが反発した。京都地裁に訴えを退けられたが、納得いかず争い続けるという▲八ツ橋の由来に定説はない。「近代箏曲の開祖の八橋検校(けんぎょう)にちなみ琴の形に似せて作った」。「川で亡くなった子のため八つの橋を架けた愛知県の話を広めようとした」。主流2説のうち、争う両者が信じるのは検校説、歩み寄る余地がありそうだ▲どちらの都も、新型コロナで観光客が激減し、土産物も売れ行きは芳しくない。V字回復に向け、争っている場合なのだろうか。折しもきょうは検校の命日である。意地を張り合ってばかりでは、顔向けできないのでは。

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