【こちら編集局です】「給付金申請書類 税務署印あるのに不備指摘なぜ」 判断材料、省庁間にずれ
▽事業者の「命綱」 柔軟な対応急務
新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ちた事業者に国が支給する最大200万円の持続化給付金。「命綱とも言うべき給付金がもらえない」と怒りの声が編集局に寄せられた。申請時に確定申告書を添付したら、不備を指摘されたという。税務署が押印した書類をなぜ、給付金を扱う経済産業省は不備としたのか。取材して見えたのは、縦割り行政の弊害だった。
給付金を求めたのは、広島市内の個人タクシーを営む60代男性。申請時の確定申告書を見せてもらった。2019年の売り上げを示す収入欄は空白のまま。経費などを引いた所得金額や納税額は正しく書き、税務署の収受印があった。
男性は申請の際、専用サイトで年間事業収入を入力した。しかし添付した確定申告書の内容と合わず「売り上げの確認が取れない」と判断されたという。相談を受けた支援団体の事務局員(26)は「男性は家族の入院に加えて事業も厳しくなり、給付金を頼りにしていたのに」と漏らす。約320件の申請を手助けしたこの団体には、同じような相談が約10件あるという。
単純な記載忘れの確定申告書だが、税務署の印は押してある。取材すると、確定申告時に収入欄はさほど重視されていない点が分かった。広島国税局国税広報広聴室は「事業収入は申告書に添付の決算書などでも確認している」と説明。申告書に書いていなくても受け付けているという。
しかし、こうした書類を経産省は給付金の申請時に求め、支給条件に合うかを確かめるよりどころにしている。税務署は税額の変更がなければ修正を受け付けない。男性の申請はこうして行き詰まった。善後策はあるのだろうか。
中国経済産業局中小企業課に聞いた。「収入の実態と確定申告書が違う申請がある」と、事態は把握していた。売り上げを事業収入欄とは違う欄に書き、申請できないフリーランスも多いという。担当者は「収入実態の確認方法を中小企業庁で検討している。近く申請ができるよう全力を尽くしている」と続けた。
中小企業庁にも取材すると、総務課が「特例」を案内してきた。19年に確定申告の義務がなかった場合や他の事情で申告書を出せない場合は「市町村民税の申告書類の控えでも申請できる」という。
ただ「通常」求めているのは、税務署で配っている確定申告書だ。この書類も所得税法などに定めはなく、広島国税局は「この書式を使わなくても確定申告はできる」と説く。支給判断の根拠の一つがこうした位置付けの紙であることの認識を中小企業庁に問うても「国税庁に聞いて」と話がかみ合わなかった。
国が不正受給を防ぐ努力をするのは当然だ。ただ今回の件は、省庁間の認識の違いで事業者への支援が届かなかったり遅れたりしているのではないか。取材でも、事業を担当する中小企業庁の電話は常に通話中で話を聞くまで1週間かかった。同時にかけ続けた一般の問い合わせ先に電話がつながることはなかった。急ごしらえの制度にせよ、影響を受ける事業者へのフォローが不十分ではないか。柔軟な対応を急ぐ必要がある。(筒井晴信)
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