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異端の岩国 <中> 国防に協力の特別感 注ぐ基地マネー、幅広く

2020/7/7
住民が無料で利用できるプールやマッサージチェアなどがそろう旭会館(撮影・山下悟史)

住民が無料で利用できるプールやマッサージチェアなどがそろう旭会館(撮影・山下悟史)

 ▽反対の声、「恩恵」にかすむ

 鉄筋2階建て延べ573平方メートルの建物には集会室や調理室、マッサージチェアを置いた健康室が備わる。卓球や通信カラオケが楽しめ、隣地には25メートルプールもある。1曲100円のカラオケ以外、住民の利用はすべて無料だ。

 米軍岩国基地の北門から250メートルにある「旭会館」は管理人が住み込む岩国市の施設。旭第二自治会の為重英雄会長(69)は「他の自治会にはない特別な施設」と顔をほころばせる。

 会館ができたのはベトナム戦争まっただ中の1971年。出撃拠点だった岩国基地は米軍機が急増し、周辺では騒音や事故、米兵の犯罪が相次いだ。そうした厄介な基地を抱える地域の福利施設として、市が単独事業で会館を建設した。

 初代管理人を務めた青木俊典さん(86)は「地域が要望すれば市は何でも聞いてくれる時代だった」と振り返る。市は会館の拡充や街路灯の整備などを次々と進めた。当時、周辺の川下地区には米兵相手のバーやキャバレーがひしめき、基地で働く人も多かった。兵士を乗せた空母が岩国に寄港するたび街は特需に沸いた。

 ▽一般会計の9%

 労働組合や学生の反戦デモはあったが、主体は県外からの遠征組。「住民には安全保障に貢献する地域として国からさまざまな支援を受ける『特別感』があった」と旭第一自治会の江波三郎会長(74)は語る。

 国が66年に基地関係の補助制度を設けて以来、市に投入された補助金や交付金は締めて1650億円。本年度の市の当初予算にも61億9200万円が計上され一般会計の約9%を占める。基地のまち故の「ボーナス」だ。

 基地の機能拡大には住民が激しく反対してきた歴史がある。だが、空母艦載機移転計画の容認派が推した福田良彦市長が4選し、実際に移転も完了したいま、反対の立場からの声は市議会でも減っている。

 基地負担の軽減を訴えてきた元市議の田村順玄さん(74)は、市民感情に大きな影響を与えた出来事として中学3年までの医療費と学校給食の無償化を挙げる。「基地と地域の共存」という抽象的な掛け声でなく、市民へ目に見える恩恵をもたらした基地マネー。「純粋に喜んだ人が多かった」と指摘する。

 市はいま、かつて基地周辺の住民が感じた「特別感」を市全域に広げることに力を入れる。基地関係の交付金などで市民会館や公園、道路を整備。小学校への自動体外式除細動器(AED)配備や、し尿処理収集車の購入に至るまで広範囲に財源を充てる。さらに防衛省が約150億円かけて市民が幅広く使える運動施設「愛宕スポーツコンプレックス」を整備するなど国独自の事業も加わる。

 ▽工業港建設の夢

 今や基地の街で通る岩国だが、昭和初期の構想では沿岸に港湾を整備し工場を誘致するはずだった。転機は太平洋戦争直前の1938年、海軍が突如飛行場を建設したことだ。戦後、基地は米軍に引き継がれた。

 40年の町村合併で誕生した旧岩国市の初代市長を務めた永田新之允は自叙伝に経緯を詳しく記す。自ら奔走した工業港建設の夢が絶たれ「将来の大岩国市を造る其(その)中心を全滅せらるゝに至った」と悔しさをあらわにしている。

 それから約80年。「平成の大合併」でさらに市域が拡大した「大岩国市」は人口減少にあえぐ。ことし4月の人口は13万2585人と2006年の新市発足時に比べ14%も減少した。宇部や周南、防府市など人口規模の近い県内他市と比べても減少のペースは速い。

 国防に協力することでもたらされる基地マネーは地域を活性化させるのか。それとも自助努力の機運を損なうのか。特別な「ボーナス」がこない他の自治体も注視している。(永山啓一)

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  • バーやクラブなど横文字の看板がずらりと並んだベトナム戦争当時の川下地区(1970年)

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