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【武家茶道 新たな時代へ】上田宗箇流若宗匠の1年<9>妙味発信

2020/7/11
茶の湯の妙味を発信しようと動画撮影する若宗匠。湯が沸き、釜が鳴るなど繊細な音も伝わればと願う

茶の湯の妙味を発信しようと動画撮影する若宗匠。湯が沸き、釜が鳴るなど繊細な音も伝わればと願う

 ▽茶室の気配、動画で投稿

 雨の季節、ひときわ精彩を放つ庭の植物は青ごけである。水をたっぷり含んで広がり、庭石や木々の根元が膨らんでくる。緑のビロードは、激しい吹き降りも和らげてくれる。

 武家茶道上田宗箇(そうこ)流の上田宗篁(そうこう)若宗匠(42)には、温めている構想がいくつかある。一つが茶の湯の様子を紹介する動画の制作、公開である。梅雨の晴れ間が広がった6月下旬の一日、計画を実行に移した。

 「新型コロナウイルスの影響で、まだまだ自由に動けない。今だからこそ、やるべきじゃないかと思ったんです」

 こだわりがある。映像はもちろんのこと、音を味わってもらいたいと考えているのだ。音は茶道の妙味の一つと信じている。

 「釜(かま)一つ取っても多様な種類があり、立てる音はそれぞれ違う。茶室にはさまざまな音が交錯しているんです」

 静まりかえった空間に身を置いていると、自然に五感が研ぎ澄まされてくる。いつもなら聞き漏らす、ささやかな響きが耳を通して体に入り込んでくる。感性がそよぎ、心も満ち足りてくる。

 動画の収録場所は上田流和風堂(広島市西区)の数寄屋「遠鐘(えんしょう)」にした。上田家に伝わる野溝釜(のみぞがま)を持ち出して炉にかける。しばらくすると湯の立つ音がかすかに聞こえてきた。続いて釜が鳴る。

 若宗匠はスマートフォンやICレコーダーと釜の距離、角度を調節しながら、最適な置き場所を探る。「いい音になってきました」。釜のふたをずらすと、一瞬湯気が渦を巻く。閉め切った室内でも空気が流れているのが分かる。

 「釜は亭主の代わりに客の相手をしてくれると言われる。それほど重要度の高い茶道具です」と若宗匠。炭のはぜる音、葉ずれの音や庭に来る鳥のさえずりが入るのもまたよし―と考えている。

 編集を急ぎ、できるだけ早く動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップする。和風堂のホームページにもリンクする予定だ。

 ウイルスの拡大は一服した感があったが、首都圏の状況を眺めていると、第2波、第3波への懸念は拭えない。

 「稽古を控えている人、やむなくお茶から遠ざかっている人に茶席の雰囲気を堪能してもらいたい。そして、茶道に触れる機会がなかった人にも関心を持ってもらえれば幸いです」

 ▽手作り茶杓でもてなし

 若宗匠は最近、茶杓(ちゃしゃく)作りに熱を入れている。空いた時間には小刀やヤスリを持ち出し、25センチほどの竹材と向き合う。

 ストックしてある材料から、「いい表情をした」ものを選び出す。節の状態なども確かめ、作業に取り掛かる。火で先の部分をたわめたものを、少しずつ削っていく。櫂先(かいさき)、切り止め…。好みの形に整え、完成するとつやを出すため、竹油を染み込ませ乾かした木綿で何度も磨く。

 傍らに見本は置かない。流祖である宗箇の好みの茶杓がどのような形状をしているか、頭の中に入っているからだ。

 宗箇の茶杓には「敵がくれ」「ほまれ」などがあり、文化遺産として今に伝わっている。上田家の歴代家元も名品を残している。茶杓作りは家元として必要なスキルだという。だから、もっとレベルを上げたいという思いもある。

 「とはいっても、一番の願いはお客さまに喜んでもらうこと。お茶をやっていると、自分のこしらえた道具でもてなしたくなるものなんです」

 道具へのこだわりというならば、自分仕様の立礼台(りゅうれいだい)を製作したのも、そうかもしれない。正座ではなく、椅子に座って茶を点(た)てる際に使う道具。実用性を重視して特注した。

 軽いうえに、工具を使わずに分解、組み立てられる。車に積んで持ち運びができる。他にも多くの仕掛けがある。格式のある行事では使えないにしても、催しの内容などを吟味しながら用いることになりそうだ。

 「私が講師になって今月末にウェブで茶道講習会を開く予定があります。まずはそこで紹介し、皆さんの反応をうかがうつもりです」

 文・林仁志編集委員、写真と動画・高橋洋史、宮原滋。 

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  • 「自作した道具でお客さまをもてなしたい」。一心不乱に茶杓を削る
  • 釜のふたをずらすと隙間から湯気が立ち上る。渦ができ、空気が流れているのが分かる
  • 雨滴を含んで青ごけが盛り上がる。ビロードのような広がりが庭を彩る
  • 特注した立礼台(右)の具合を確かめる。軽く、簡単に分解、組み立てが可能だ

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